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闇物語
コヨミフェイル
009
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 「なんか利用するようであんま気が進まへんけど、面倒やから、ありがたとお使わせてもらうで」
 そのときちょうど影縫さんが少年の腹部に痛烈な飛び蹴りをいれたときだった。僕の立ち位置からは影縫さんの足首まで少年の腹部に減り込んだのが見えてしまった。強烈にトラウマが蘇る。
 影縫さんは反動で後ろに飛び上がると華麗に一回後転し、灯籠に音も無く着地した。少年はというと、後方十メートルの崩れた北白蛇神社の本殿まで一度も地面につくことなく真っすぐに吹っ飛ばされて、叩き付けられていた。僕が数ヶ月前に忍野に張るように頼まれた札、良くないものを拡散させる札が張ってある本殿の正面の戸に叩き付けられたのだ。
 その瞬間少年は電撃を浴びたかのように体をのけ反らせて、無表情を貫いていた顔を歪ませて口を大きく開けたが、その口からは声が出ることはなく、代わりに黒いものが吐き出された。その黒いものは球体にひれのようなものがついていて、小さく数回跳びはねたかと思うと、ぴくりとも動かなくなった。
 少年は口から黒い物体を吐き出すと同時に何かから解放されたかのように膝から崩れ落ちた。意識は失っているようで、黒い物体と同様に動かなくなった。
 それを確認してから影縫さんは灯籠を軽快に跳び移って、神社の本殿に一番近い灯籠で少しだけ強く灯籠を蹴って苦も無く本殿の戸の前に降り立った。本殿は石の土台の上に建てられているので、地面に触れないという判定のようだ。少年のそばでしゃがんだ影縫さんはまるで臆する事なく黒いものを摘み上げた。
 「やはりな」
 影縫さんは黒いものをじっくり見ることもなくその黒いものを地面に落とすと、踏んだ。
 なんの躊躇も無く、踏み潰した。
 踏み潰した際弾力のあるものが押し潰されたような生生しい音がそれなりに遠くにいる僕の耳にまで届いた。その音に僕は引いたが、斧乃木は勿論、忍もまるで動じなかった。
 まあ、僕は純粋だし、二人は怪異だしな。仕方がない。
 「やはりってどういう――」
 ことですかと、訊こうとしたところで右の腰辺りが小刻みに震えた。
 携帯がメールを受信したようだったが、影縫さんの意味ありげな言葉が気にならないわけがなく、メールを見るのは聞いてからでも遅くないと思い携帯はとらなかったが、
 「見た方がええで」
 行きと同じく灯籠の上を軽快に跳び移りながらこちらに向かっている影縫さんが言った。どうやってメールの内容を知ったのかは先ほどの意味ありげな言葉ぐらい不思議で不可解だった。
 「勘や」
 そんな僕の気持ちを知ってから知らずか、影縫さんは付け足した。今日で女の勘がどれほどの驚異的なものなのか身をもって知っていた僕は影縫さんの言葉を何故か信じられた。下手な理由より納得できる気がした。
 僕はポケットから携帯を取り出し、メールを開いた。
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