コヨミフェイル
009
[3/10]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
らと言って流石に春休みに披露した脳を掻き混ぜるあれをしてほしいとは思わない。概して思い出そうと思えば、そう思うほどに思い出せないものである。それは怪異も例外ではないようで、忍は目的地に到着するまでただしわを寄せて唸っていた。
階段の前に自転車を停めてそれほど長くはない階段を登り、頂上を目指した。
「遅いよ、鬼いちゃん。もう来ないかと思ったよ――僕はキメ顔でそう言った」
階段の最後の段に斧乃木ちゃんが座っていた。
「観客席はここだよ」
無表情で手招きする斧乃木ちゃん。
「観客席って」
それに応じて僕は階段の一番上の段を目指して上りはじめた。後ろを斧乃木ちゃんを一目見ただけで不機嫌になった忍がついてきた。八九寺は例に漏れず、階段を上っている最中にいつとなく消えていた。
「ん?」
階段を上っている途中で不意に疑問が浮かんだ。
静かなのである。奇妙なほどに、いや気味の悪いほどにと言うべきか。戦闘音のせの字も聞こえてこないのだ。僕の記憶が正しければ、僕との戦闘の時は床を拳打の連打で打ち抜いていたりと破壊音はかなりのものだったと思うが、今僕の耳には何一つその類の音が入ってこなかった。既に終わったのだろうかと思ったが、その予想は裏切られることとなった。
最上段まで後八段のところで足を止めた。いや、止められたと形容した方が的を得ているだろう。
その原因は単純に階段で見えなかった境内が見えたからだった。そこで行われていたのは戦争だった。相手の破壊を目的とした一方的で静かで小さい戦闘。
影縫さんのすべての攻撃が相手に加えられているのだから破壊音が聞こえてこないのも当然だった。かわされたとしてもそれを次の攻撃へと繋げて相手に体勢を整える時間さえ与えない。集中してやっと影縫さんの突きや蹴りが空気を裂く音や息遣い、靴が擦れる音が聞こえる程度だった。しかし、それでもその戦闘は壮絶を極めていた。
ただ、一方的な大人と子供の戦いでなかったらもっと迫力があっただろう。
罰当たりにも境内の石でできた崩れかけの灯籠の間を縦横無尽に目にも止まらぬ速力で跳び移っては、蹴りや突きを見舞っているのは紛れも無く影縫さんだったが、影縫さんが圧倒的な攻撃力でもって痛め付けている中学生と思われる男子には見覚えがなかった。
って、あれ?中学生?
目を一度擦ってからじっくりと見たが、やはり影縫さんの攻撃に翻弄されて身動きを取れずにいるのは紛れも無く中学生の男子だった。Tシャツが影縫さんの攻撃で綺麗に真ん中から左右に裂けていた。
「何をしているのですか、影縫さん!!」
それを知覚するや否や、叫んでいた。
残りの段を二段飛ばしで駆け上ったが、最上段で僕の前に立ちはだかった斧乃木ちゃんに阻まれた。
「あれは不死身の怪異に犯されているんだよ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ