第六章
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第六章
「ナナハンを自転車で抜くか!?」
「化け物かよ!」
驚きのあまりその背中を見ることしかできなかった。弘樹の自転車はバイクを抜き去りありとあらゆる常識を無視してさらに進むのだった。
彼が突き進んでいるその頃。麻美は自分の家で穏やかな夕食を採っていた。
父はまだ帰っておらず母と弟の三人でテーブルに座って食べている。白い御飯に鶏肉を人参や蓮根と一緒に煮たもの、それに味噌汁とほうれん草のバター炒めといった献立であった。
それを食べながらだった。母が麻美に言ってきた。
「今日だけれど」
「七夕よね」
「それで弘樹君からは何かあったの?」
こう娘に尋ねてきたのである。
「彼からは何かあったのかしら」
「いえ、なかったけれど」
そのことを母に対して答えるのだった。その手に白い御飯が入ったお椀とお箸を持ちながら。
「何もね」
「あら、意外ね」
それを聞いて目を少し丸くさせる母だった。
「あの子が何もしなかったなんて」
「何か考えてるらしいけれど」
どうも不安と期待が入り混じってしまっている麻美だった。
「それが何かまでは」
「わからないのね」
「七夕は夜が本番だし」
今がその夜であった。麻美曰く本番の。
「これから何があるか」
「そうよね。弘樹君のことだから」
彼の突拍子なさは母親もよくわかっていた。最早それがトレードマークにもなっていた。
「何をしてくるのかわからないわよね」
「覚悟はできてるわ」
もうそれはしている麻美であった。
「それはね」
「いい心掛けね」
半分以上平時において言う言葉ではなかった。戦争状態において言う言葉に近かった。
「それはね」
「ええ。本当に何をしてくるのかしら」
「それが問題ね」
「何が来てもよ」
麻美はほうれん草のバター炒めを自分の皿に採りながら強い声で語る。
「準備はできてるわ」
「偉いっ、それでこそ女の子よ」
母の言葉はここでも相当なものがある。
「男の子と付き合うのにはね」
「覚悟が必要なの」
「そうよ、何が起こってもそれを受け止めてそのうえで立ち向かう」
やはり平時の言葉ではなくなっている。
「それが女の子だからね」
「ええ。それじゃあ」
「受け止めるのよ」
また告げる母だった。
「わかったわね」
「ええ」
麻美は母の言葉に頷く。
「わかったわ」
「それでだけれど」
ここで弟が言ってきた。
「弘樹さん何時来るの?」
「それがわからないのよ」
そう言われると困った顔になる麻美だった。
「今来るか真夜中になるのかね」
「今のうちにお風呂入っていなさい」
このことを娘に告げる母だった。
「今のうちにね」
「もう入っておけっていうの?」
「そうよ。だから何時来る
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