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七夕のラプソディー
第五章
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第五章

「そう、今からだ」
「今からって?」
「知れたこと。今日は何の日だ」
「七夕だけれど」
 その運命の日である。織姫と彦星が会えるその日である。
「まさかそれで?」
「左様、私は行く!」
 またしても断言であった。
「今より姫の下へ。この短冊を持ってだ!」
「ええと、確か麻美さんのお家って」
「ほんの三十キロ先だ」
 それ位離れているのである。中学校までは別々であり高校の入学式で知り合った。それがまさに運命の出会いだったというわけである。
「では今から行って来る」
 丁度時間は夕刻である。
「それではな」
「それではって。三十キロ先よ」
 まずはそこを突っ込む妹だった。
「どうやって行くのよ」
「自転車というものがある」 
 それを話に出してきたのであった。
「それで行けば三十キロなぞどうともないことだ」
「いや、どうともあるわよ」
 また速攻で突っ込みを入れた愛美だった。渡り廊下から兄を見るその目は流石にかなり驚き呆れたものになっている。当然と言えば当然である。
「三十キロっていったら」
「何、ほんの三時間で着く」
 しかし彼は妹の言葉を聞いてはいなかった。
「三時間もかからないかもな」
「どうしてもそれで行くのね」
「そうだ。それではだ」
 早速その竹を手に取る。そのうえで右肩に担ぐ。その細い外見から想像もできないまでに力が強い。軽々とさえした手の感じである。
「参る」
「車には気をつけてね」
 止められないのはわかっているのでこう言うだけだった。
「くれぐれもね」
「わかっている。それではだ」
 こうして天の川を超えに出陣する彦星だった。屋敷を出る自転車の速さは想像を絶するものだった。竹を担いでいるとは思えないものがあった。
「あれだけ無闇やたらに情熱的に愛することができるって」
 妹は家の門からその兄の消えている後ろ姿を見て呟いた。
「凄いことは確かね」
 そう言って認めることは認めるのだった。呆れてはいるが。
 弘樹は駆けていた。その速さは尋常なものではなかった。
「いざ!」
 全速力で道を進んでいく。まさに疾風である。
「姫の下へ。参る参る!!」
 叫びながら突き進む。周りはその姿を見てまずは唖然であった。
「何だ!?竹が動いている!?」
「走ってるのか!?」
 竹が大きく彼の姿を隠してしまうのでそう見えるのである。
「何なんだ、あれは」
「七夕だから!?」
「だから竹!?」
 それはわかるが竹が異様な速さで動いているのは納得できなかった。唖然とした顔でそれを見守り道を開けることしかできなかった。
「何なんだ、あれは」
「何か自転車に人が乗ってるけれど」
 それには気付いたのだった。
「けれど何であんなに急いでるんだ?」

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