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滅ぼせし“振動”の力を持って
彼と家出の訳
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私が、悪いんです」


 無視できないほど沈みこんでいる彼女に春恋は疑問を抱くも、それだけ言うとイナホは黙ってしまった。


 もしかしなくても先程の海童の態度と、ヘアピンの有無にイナホの気落ちも関係あるだろうと、春恋は値を付けて一旦窓の外を見てから切り出した。


「取りあえず続きはお風呂に入ってからにしましょ。イナホちゃん、濡れたまんまじゃあ寒いでしょ? カッちゃんじゃあるまいしね」
「……はい」



 夢中になっている様でその実二人の会話をちゃんと耳に入れ、その言葉が区切りだと思ったのか、子猫とたっぷり遊んで満足したアズキは粉ミルクを置いて帰って行った。


 そこから、まずコダマと子猫が先に風呂……厳密にはシャワーで体を洗い、続いて春恋とイナホが一緒に風呂へと入った。
 浴槽にはしっかりお湯が張ってあり、雨だからと春恋があらかじめ用意し、気を配っていた事が分かる。


 イナホの背中を流しながら、今回の事の顛末を聞いた春恋は、納得したように頷いた。


「なるほど。おじ様の話を出したから、ね」
「はい。お二人の仲が良くないと言う事は、前々から聞いてはいたのですが……」


 剣呑な空気を湛えた明らかに普通ではない、そんな目付きで睨まれた事を思い出したのだろう、イナホは少し身を縮めて俯いた。


「そうね……これは、カッちゃんが十歳ぐらいの時の事なんだけど―――」


 春恋曰く――――


 数年前のある日、海童の実家である大山道場に、時代を間違えたとしか思えない道場破りが現れ、留守だった海童の父に代わり、母が相手をしたのだと言う。


 海童の母とて軟弱な腕は持っておらず、寧ろ上位に入るほど強かったのだが、道場破りの男はそれをさらに上回る実力を誇り、幾度も彼女を叩き伏せたらしい。

 しかし海童の母は何度打ち据えられようと、何度吹き飛ばされようと……幾度となく打ち出される剛撃でボロボロになろうとも、立ち向かっていくことを止めなかった。

 病を患っている体だと言うのに、だ。


勝負の途中で海童の父が戻り勝負の中止、もしくは交代を申し出るように促したが、彼女はそれを拒否し戦いを続けさせてくれるよう頼み、頑固にも交代やを受け入れなかった。

 父こそ彼女が抱いている何かを感じ取り、勝負を続行することを認めたのだが、ここで納得いかなかったのが海童本人。
 何度も父親に食いつき、時には無理やり勝負へ割り込もうとしてまで、道場破りと母の戦いを止めようとしたが、当然のことながら父の手によって止められ、ただ叫ぶだけに留まってしまう。


 結果、海童の母は負けてしまったのだが、道場破りは特に何もせずただ立ち去って行ったのだと言う。


 その後……
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