彼と家出の訳
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タケシおじさま” にソックリです」
「…………なんだと……?」
「あ……」
そして、先程まで呆れながらも笑っていた海童の表情が、それが嘘だったかのように剣呑且つ険しいモノへと、ガラリ百八十度変わる。
イナホの表情もまた、しまったという思案顔から、彼の鋭く変わった目付きに肩をすくませ、やがてバツが悪そうに目線を顔ごとゆっくりそらした。
「何故親父の事を知っている……? 何故親父の話を出した……イナホ」
「ご、ごめんな、さい……今は、御話しできません……です」
「……」
「……すみません、です」
傍から見ていた碓とうるちは、何が何だか分からないと首をかしげている。
それ以降海童とイナホは、この授業では口を利かないどころか目も合わせず、お互いに一定の距離を保ったまま、体育館を出るまで無言だった。
それは入学し、彼と彼女が出会い、マケンキに入ってから、今の今まで全く例を見ない、初めての出来事だった。
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雨が降り続く、天日。
空より水が降り注ぐ、この天気が好きだという者も居るが、普通は降水日など妬ましい者が大半だろう。
濡れる、場合によっては風邪をひく、吹きつけられれば進行を阻まれ、川は氾濫し道は滑りやすくなり、おまけに土は脆くなって事故が起こりやすくなってまう。
場合によっては避難せねばならない……そんな天気を好むものは、小雨限定なのか、それともセンチメンタルな雰囲気が好きなのかもしれない。
もしくは、田畑にて生活をなしている、恵みの雨を待つ者か。
しかし幾ら水不足を補えると言っても、基本的には嫌われる天気であり、そしてここにも、止むどころか段々強くなり土砂降りをも予感させる雨天に、溜息を吐く者が一人いた。
「はぁ……雨続きで乾かないから、仕方ないわ……仕方ないんだけど、これは流石にね……」
吹きつけられては堪らないからとベランダから取り込み、部屋干しへと切り替えた春恋は、下着類まで諸々吊るされている物干し竿を見て、やり場のない感情を目に浮かべていた。
この部屋の住人は春恋、コダマ、イナホの女子三人だけではなく、ほかに男子である海童も居るのだから、幾ら相手が思春期男子の思考から、何かと縁の遠い人物だとは言え、流石にこのままにしておくのも問題だろう。
はてさて如何すべきかと彼女が頭を悩ませていると……。
「ただいま、です」
玄関の戸が開く音がし、次いでイナホの帰宅を知らせる声が聞こえた。まず間違いなく海童も居る筈だろう。
春恋は予想していた出来事が早く訪れた所為で、洗濯物を前に俄かに慌て始める。
「わ、
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