彼と家出の訳
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な奴だ」
死にかけたと言うのに未だ状況も知らず、甲高い声で鳴きながら首を傾げる子猫に、海童は苦笑いを返す。
このまま帰ろうと腰に力を込め、立ち上がろうとした瞬間……頭上に影が差す。
「!」
「ニャ?」
またも落ちてきたのだ……先の岩石雪崩含まれていた岩とは、それこそ段違いの大きさを誇る、余りに大きな巨岩が。
が、今度の海童は酷く落ち着いており、漸く状況を理解して目を丸くする子猫とは、対象的ともいえた。
「とことん俺や猫が嫌いらしいな、この山の神様ってのは……けどな」
それだけ言うと海童は左腕に子猫を抱き、右拳を後頭部辺りまで持って行く。……そして、無言で頭上に拳を叩きつけ、轟音を響かせた。
同時に巨岩の落下が一瞬止まり―――――木っ端微塵に弾け飛ぶ。
あげていた右拳を掲げたまま、海童は子猫に笑いかけた。
「助けるべきもんは助けたんだ、もう遠慮はいらねぇんだよ」
「ナー……」
子猫でも驚く事があったのかと、そう思わせてしまう程腕に抱かれた子猫は口をあけて、目を丸くしていた。
それも、右手を下ろして頭を撫でれば、気持良さそうなリラックスした物へと戻っていく。
防げようともここは危ないと、海童が岩壁から少し離れて街道まで戻ると、また雨のカーテンの向こうに人影が見える。
背格好から春恋で無い事を見抜き、なら誰なのかと近づいて……海童も向こうの人物も、思わず立ち止まってしまった。
「イナホ……」
「カイドウ、さま……」
今絶賛行き違い中、もといすれ違い中である、イナホだったからだ。
暫くバツの悪い様な雰囲気と、気を使い過ぎじゃあないかと言う空気が漂い、子猫が小さく “ナー” となく声と、雨が地を叩く音のみが聞こえる。
シーンとした静寂が続き、先に口を開いたのは、海童の方だった。
「この前は、そんで今日の事も……悪かった、すまん」
「へっ?」
唐突に頭を下げられ、イナホからしてみれば意味の分からない行動に、どうしたらいいのかと、目を白黒させて、軽く右往左往している。
こうなったのも己の所為だと、事情を丁寧に海童が説明し、やがて話終わるとイナホは右往左往は無くなったものの、呆然として未だ目を白黒させていた。
まあ当然だろう……怒らせてしまったかと思いきや、彼なりに罪悪感を感じていただけだったと分かれば、誰だって驚愕してしまう。
「親父の事は、まだ割り切れないが……だからと言って、お前に当たるつもりは無いんだ。無関係じゃあなくとも、ちょっと関わりがあるなら邪険にするなんざ、お門違いだからな」
「カイドウさま……」
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