彼と家出の訳
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「ハル姉達の言っていた事が本当なら―――居たっ!」
ビンゴ、そう言いたげに海童はフィンガースナップをかました。
見事子猫は麓の岩壁近くに座っており、此方の気苦労も知らない様な呑気な顔で、“ナー、ニャーオ” 等と甲高い声で鳴いている。
やるせない気分になったか額に手をやり、海童は二三度頭を振った。
少しづつ近づいてみるが、どうも怯える事も無ければ嫌がる様子も無く、寧ろ此方が来る事を歓迎している様子で、海童を見ながらナーナーと嬉しそうに鳴き続けていた。
その様子に更に頭が重くなったか、先よりも回数多く海童は頭をゆっくりと振る。
「ほら、今は危ねえんだ……帰るぞ」
「ナー? ニャーニャー!」
またもはしゃぎながらクルクル回り、子猫にしてはかなりの速度で突っ走って行ってしまう。
海童は溜息を大きく吐き、僅かに気だるげになっている足取りで、子猫の方へと歩いて行く。
……油断していたのだろう……子猫がアッサリ見つかった事と、別段此方を嫌がっていないこと、そして余りにも邪気が無かった事に。
だからこそ―――
「ん?」
頭上で響いた音に気が付くのが、少し遅れたのか。
(崖崩れっ! ……まずい、あの位置は!?)
何の恨みがあるのか、崩れた岸壁より発生した岩雪崩は子猫へとピンポイントで迫っており、このままでは押しつぶされてしまう。
だが気付くタイミングが遅れた所為で、海童の力では逆に子猫を傷付けてしまう。そこから何に繋がるかは、彼とて予想も出来ない。
嫌われるなら兎も角、万が一岩雪崩から助かっても自分の手で子猫を……力の大きさが、皮肉にも枷を掛けていた。
(やるしかねぇ……!)
それでも、彼の中に希望はあった……下手をすれば自分も助からないかもしれない、だが―――
(迷ってる暇は無い!!)
足に思い切り力を込め、衝撃波四割、己の力六割を込め……
……濡れ軟くなった地を、思い切り蹴り爆ぜさせた。
「うらあああっ!!」
全ての景色を追い抜いて行くような加速の中、後ろにぶっ飛んで行く気色には目もくれず、ただ子猫の姿だけを……他の物がボケて見える程にそれのみを視界に捉え、足より胴を、胴より腕を、ただ届けと只管に伸ばす。
岩雪崩との衝突まで五m、四m、三m、二m―――――あわやという所で子猫を掻っ攫い、ヘッドスライディングしながら、後方に落ちる岩々の音を聞いていた。
帽子が吹き飛び直に晒された髪に、ほんの少し岩石が触れた感触を思いだし、海童は若干ながら震える。
「ナー?」
「……ったく、呑気
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