最恐最悪にして最高の師
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少年にとって、翁は最恐最悪の師である。出会った瞬間に殺されかけ、その日のうちに治療も施されずに「翁の一撃を受けて、立っていること」という洒落にならない課題を押し付けられ、それをこなせなければ殺すと宣言されたのである。いくら、LV的には常人を遥かに上回るとはいえ、肉体は5歳児である。それは無理難題といっていいものであったから、なおさらである。
だが、一方で翁は最高の師であった。少年に現状を認識させ、その慢心と甘えを打ち砕き、そして心身ともに鍛え上げるという意味では。
『渡辺 雷鋼』は、『八神 透麻』にとって、最恐最悪にして最高の師であった。
「ほれほれ、どうしたどうした?はよう召喚せねば死ぬぞ」
雷鋼の剛拳が透麻の鼻先をかすめるように通り抜ける。その拳は手加減されているとはいえ、透麻を殺すのは十分すぎる威力があることを、雷鋼の弟子にさせられてからの1年の間にその身をもって透麻は理解している。というか、1年の間に殺された回数はゆうに10を超える。10以上は数えていない。あまりにも日常的に殺されるので、正確な回数を認識したら狂うと透真は考えたからである。制限時間内であれば、動けぬような重症を負おうが、殺されようが、雷鋼の仲魔である西王母の『メ・ディアラハン』で瞬時に回復、あるいは『サマーリカム』で強制的に蘇生させられ、その日の課題(透真はノルマと呼んでいる)をこなすまで、それは永遠に続けられるのだ。死んでも救いはない。それは最早、地獄といって良いだろう。それを毎日味わうのだから、普通の子供なら、とっくに狂ってしまっていってもおかしくなかった。
しかし、幸いといっていいのか分からないが、透真は普通ではなかった。精神自体は通算して30歳に迫るし、その身には『ペルソナ』という破格の異能を身に着けていたのだから。そして、何より彼には生への狂おしい程の渇望があった。真実もう一人の自分とも言うべき透夜という何者にも代えがたい犠牲を払って生き延びた透真には、狂うことも諦めることも断じて選ぶことができなったからだ。どれ程、無様でも生き延び、少しでも長く生き続けることが、彼なりの贖罪であり、自身に課せられた業だと透真は思っているのだ。
それはさておき、今日の課題は『ペルソナの高速召喚』である。ペルソナの召喚には、どうしてもある程度の集中が必要である。しかし、それは戦闘時には隙にしかならない。ゲームであるペルソナシリーズでは仲間がいるから、その隙をカバーできたのかもしれないが、透真は一人である。である以上、それは致命的とも呼べる隙にしかならないのだ。無論、透真もそんなことはすぐに気づいたし、対策をしてこなかったわけではない。集中時間の短縮や、動きながらも召喚できるように訓練してきた。その集大成を見せろというのが、今日の課題であった。
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