暁 〜小説投稿サイト〜
クルスニク・オーケストラ
第十二楽章 赤い橋
12-1小節
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
 目を開けて一番に目に入ったのは、知らない天井。
 この感触はベッドね。……これで病室送りは何回目かしら。はあ。

「補佐! お気づきですか?」
「シェリー……」

 二人しかいないAチームのエージェントの片割れである彼女は、目を潤ませている。心配させてしまったのね。

「付き添ってくれたのは、貴女?」
「はい。あと、カールも」

 A(エース)チームを二人とも使うなんて大袈裟ですわね。指示したのはリドウ先生とヴェルのどちらかしら?

「ここはどこの病院?」
「クランスピア本社の医療フロアです。ドヴォールから連絡を受けて、こちらに搬送させていただきました。《レコード》吸収直後でしたので、精密検査の必要があると、リドウ室長が。今は別件で席を外していらっしゃいますが」
「別件?」

 そこでシェリーは不安げに目を逸らした。彼女の目が流れた先は、カーテンの隙間から覗く窓。

 っつ……片腕だけで起き上がるのは骨が折れるわね。――大丈夫よ、シェリー、心配しないで。これくらい、いつものことですから。

 ベッドを降りてカーテンを出ると、窓際でカールが空を見上げていた。

「! 補佐、もう起きて大丈夫なんですか?」
「ええ、それより現状を……」

 わたくしも窓際に立って――愕然とした。

「まさか…あれが、カナンの地?」

 二重映しの黒い月。空に浮かぶ禍々しい子宮。おぞましいほどに巨大な胎児の影。

「ルドガー……副社長が集めた《道標》を使ったら、このようになりました。カナンの地で間違いないと、一行の監視に当たっていたBリーダーのゲーテから、連絡がありました」
「《カナンの地》出現後に住民の混乱が著しかったため、数名が現場に赴いて対応しました。今はマクスバード両港に封鎖令を布いて人払いをしています」
「……待って。副社長?」
「はい。ルドガーく…ルドガー様は本日付けで副社長への異動辞令が出ました。今の彼は会社のナンバー2です」
「社長は?」
「ジゼル補佐が来てから、カナンの地へ発たれるそうです。我々は、補佐が目覚め次第、社長室にお連れするように、と――社長から言いつかっております」

 そういうこと。貴方たちはわたくしの監視役で連行役だったのね。わたくしが逃げないように、反抗しないように、ビズリー社長がかけた保険。
 確かにわたくしは、業務外と《レコード》再生中以外では、エージェントを――部下を傷つけることはできませんから。

「助かるわ。実は社長室への行き方が分からなくなってしまってて」

 ああ、やっぱり、普通の人なら蒼い顔になりますわよね。――わたくし自身、困ってるのよ。でも限界なものはしょうがないわよね。

「支度しますわ」
「手伝います」
「ありがとうございま
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ