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クルスニク・オーケストラ
第十二楽章 赤い橋
12-1小節
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す、シェリー」

 誰かがランドリーに持って行ってくださったのか、いつもの改造制服は綺麗に洗濯乾燥されている。

 灰色のアンダーとタイツ、スカートは自分で履く。そこに上から、赤いベストと黒いゴシックアウターをシェリーが着せてくれた。
 揃えてくれた靴に足を――通すことさえ、今のわたくしには一人ではままならない。

「ありがとう」
「いえ……」

 カーテンを開けた。お待たせ、カール。カール?

「っ、失礼しました」
「いいのよ。どうかして?」

 カールは少しためらってから口を開いた。天高く浮かぶ赤黒い球体を見上げて。

「――空、を」
「空を?」
「空を見上げて、初めて、怖い、と感じました」

 窓の向こうを見上げる。いつもの曇り空に、在るだけで恐ろしいモノが在る。

 次いで室内をふり返る。男女のノーマルエージェント二人。分史対策室Aチームの生き残り二人。同時に、部署内では時歪の因子(タイムファクター)化が特に進んでいる子たちでもある。


         だいじょうぶ しんでも そこで おわりじゃない


 終わりじゃ、ない。どんな時だって、自分にできることがあるなら、自分から動く。12歳で時計を見つけて、分史破壊活動を始めてから、ずっとそれがわたくしの信条だったはず。
 それを思い出させるための、《わたくし》からのメッセージ。

 死ぬのが怖かった。たくさん取り込んだ《レコードホルダー》たちと同じで、《ハッピーエンド》を迎えられずに、何も成せずに死んでいくのが怖くて堪らなかった。

 でも、そうじゃないと、分史世界の《わたくし》は教えてくれた。

 この身が死のうと、死後を託せる人がいるのなら、ほんの少しだって欠けることなんて、ない。

「カール。シェリー」

 わたくしは二人の部下の名を呼んだ。一つだけ、そう、一つだけ。

「一つだけ、死に逝く上司のワガママを叶えてくださいませんか?」
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