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お嬢様と執事
第八章
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女は庭の白いテーブルに座ってくつろいでいた。その彼女に対して控えていた二人が紅茶を入れるついでに尋ねたのであった。
「あの、お嬢様」
「何でして?」
 紗智子は優雅に二人に言葉を返してきた。その前には紅茶を入れた白い陶器のカップだけではなく狐色に焼かれたクッキーも置かれていた。それを一つつまみながら二人に応えたのである。
「島本さんのことですけれど」
「ええ、それが何か」
 今正人は奥で他の用事をしている。それで彼がいないことを利用しての話であった。
「お嬢様のあれはテストだったんですよね」
「そうですわ」
 紗智子の我儘のことである。
「それが何か?」
「いえ、そうだったらいいんですけれど」
「それで」
 二人はそれを聞くのであった。
「御安心なさい」
 紗智子は二人を安心させるように言うのであった。
「私は我儘を忌み嫌っておりますわ」
「ですよね」
「ではあの時は」
「人は嫌っていても」
 ここで彼女は真面目な言葉を述べた。
「時としてそれをしなくてはならない時がありましてよ」
「そうですね」
「それは確かに」
 彼女達もそれは実感できた。時として嫌な仕事をしなければならなかったり嫌な客の応対をしなければならないからだ。メイドも何かと大変なのだ。
「そういうことでしてよ」
「ですか」
「ええ。これでおわかりでしてね。ただ」
 しかしここでまた紗智子は言うのだった。
「何ごとも素養がなくてはできませんわね」
「あの、それって」
「つまり」
「さて」
 しかし二人の問いにはあえて余裕の笑みを浮かべてそれを誤魔化すのであった。あっさりとかわした形になる。
「どうでしょうか。ところで」
「あっ、はい」
「お茶ですね」
「はい、御願いしますわ」
 優雅に二人のお茶を受ける。そうして優雅なままでその場を過ごすのであった。己の中にある本当のことはあえて言わずに。そうして茶を飲むのであった。


お嬢様と執事   完


                2008・2・23

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