三十話 気付(フィンド)
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「しょうがないなあ」
広翔はため息まじりにそう言った。
もう自分の心境の変化には気づいている。ここは、あの泥臭い屍になるような軍の中の生活とは全く違う雰囲気だった。
「オーケー、じゃあジャージ取ってくるわ」
そう言って彼女は奥の部屋に行った。
部屋はしずまりかえった。
…
「・・・もう気づいてるんじゃないですか?…広翔さん。」
静かになっていた部屋の中で妹の方が喋り出した。
だが顔は下を向いて目は合わせようとしていない。
「・・・何が?」
広翔は単純にそう言った。
「・・・あの人の正体のこと、そして私のことも。」
顔を合わせずにいた。それは広翔もだった。
「・・・わからないよ、教えてくれ。」
「・・・わたし達が本当の家族だったということですよ。」
広翔は黙りかえった。
彼女の顔は真剣なゆがんだ顔がひとかけらも無い、そんな表情だった。
…
「・・・証拠…ありますよ」
彼女はそう言って、右手を差し出していた。
それは能力を行使するポーズだった。
だがそうではない。彼女はその手につけていたピンクの手袋を取った。
「・・・義腕(マニュアルタレット)…か…」
…そう、手袋の下には鉄のような腕が潜んでいた。
【義腕(マニュアルタレット)、先天性で腕がない人や、腕を失った人が使う偽の腕。】
今の科学ではただの着け物ではなく、能力の一部を使って動かすからくり形式になっている。
まあ、生活中でも能力が消費しているので少し負担になるが…
と広翔は説明を語るように頭の中を駆け巡らさせた。
「・・・」
やはりふたりとも黙ってしまった。
広翔にはなんといえばわからない。どう感じればいいのかさえもわからなかった。
「・・・あの事件で…腕を無くしたんだ…。」
彼女はそう喋った。
さすがに泣き出しそうだった。
そして広翔はこう言葉を掛けた。
…
「なあ・・・辛かったか? …………理奈(りな)…」
それは名前だった。妹の名前。小学2年生の時に失いかけた妹の名前だった。
彼女は僕の本当の妹だ。
姉以外もう死んでしまったと思っていた。
「・・・…うんっ…、辛かったよ…お兄ちゃん…」
ついに涙が溢れてしまった。
ーーーーー
全てはあの事件だった。
広翔達は生き残った。兄も、父も、母も、クラスメイトも全員この世から消えた。街の人々が全員消えた。
あの時のことは鮮明に覚えている。僕らはよく生き残ったものだ。
ーーー
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