暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
殺意はナイフと拳銃と言葉で紡がれる
[3/6]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
間がない」

 「はっ、はぃ!」

 素っ頓狂な声を出した運転手。彼は慌てた手つきで運転席に乗り込み、普段通りに客用の自動ドアを開ける。助手席には社長が、後部座席には大男が乗車した。彼は最初に足を忍び込ませ、それから身体を九の字に曲げて全体を中に押し込めた。グラリと車体が横に揺れるのを感じて、社長が嫌な顔をする。

 「私は酔いやすいんだ、いきなり揺らすな」

 「申し訳ありません。これからは用心致します」

 隙のない丁寧な敬語を紡ぎ出す大男をミラー越しに睨み、それから彼女は隣で深呼吸している運転手にこう言った。

 「ああ、とりあえずこの携帯にある地図通りに進んでくれ。それと安全運転でな」

 「えっと、場所は分かりますが、この時間からですか?行っても住宅街かイタリア庭園ぐらいしか……」

 「構わない。出してくれ」

 「わ、わかりました」

 運転手は怯え気味にそう言うとアクセルを優しく踏んだ。ゆっくりとタクシーが動き出し、ハンドルの動きに合わせてタイヤが右方向に曲がる。「お、重いなあ……」という運転手の戸惑った声を聞きながら、彼女は駅前のネオンを横目に見やった。

時間帯もあってか、人混みは先ほどのパーキングエリア辺りと比べると本当に少ない。それでも自分の住んでいる場所はほとんど人などいないが、と自嘲気味に笑う。

 ――むしろ私達は人を消す立場だな。

 それから社長は、安全第一で走り出したタクシーの運転手が蒸かす煙草の代わりに言葉という煙を車内に蔓延させた。

 「仕事というのは実に面倒だ。慣れてしまえばそれまでで、現実が退屈になってしまう。その上、嫌なことが起きて責任を取るとなったら苛立ちが募る。まるで今の私だ」

*****

同時刻

 田村要が殺すべき相手として選んだ人間はただ一人だった。大河内の腕が下がった瞬間、彼は後ろに新手の敵がいるにも関わらず、背を向けて駆け出した。その後ろで発砲音が響いて後ろを見ると、ヘヴンヴォイスの女性が左手に持ったナイフで銃弾を打ち返していた。今だけ、彼女が歴戦を共に戦い抜いた仲間だと錯覚してしまった。

 すでに周りでは敵との交戦が始まっており、一ヵ所に纏まっていた殺し屋統括情報局の殺し屋達は散開し、個々の連中と潰し合っていた。しかしその中でマトモに動けていない奴がいた。

 要は挨拶代わりに左手に持ったナイフを敵の顔面目掛けて投げつける。が、それは威力を落として敵の前で地面に落ちた。少しばかり距離がありすぎたと心中で舌打ちする。

 だが相手も自分に気付いたようで、こちらの顔を見て驚愕の声を漏らした。

 「……田村君?」

 敵は手に持つ拳銃すら落としそうになり、慌ててそれを持ち直す。素人丸出しの動きに笑いたくなる
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ