第一章
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紗智子の言葉に頷くとすぐに姿を消した。そうして暫く経ってから持って来たものは小さな木製の小箱であった。
「お待たせしました」
「遅いですわね」
礼を述べるのでもなくそう文句を言うのだった。その間表情を変えることはない。
オルゴールを受け取ると静かに姿を消した。その時にまた正人に対して言う。
「いつも通りに」
「七時でございますわね」
「それはもうわかっている筈ですわ」
またきつい声になっていた。
「宜しいですわね」
「はい、それでは」
正人の一礼を受け流すようにして二階の自分の部屋に向かう。自分の手でその樫の木の扉を開けるとその中に消えた。正人はそれを見送っていたが扉が完全に閉まるとすぐにその場から姿を消した。彼が向かうのは屋敷の中にある使用人達の控え室であった。そこは控え室にしては豪奢なもので屋敷の中の空いた部屋を使っていることがわかる。そこにメイドやシェフ、運転手達が座ってめいめいテレビを観たりゲームをしたりお菓子やお茶を楽しんでいた。かなり楽しんでいると言えた。
「ふう」
「ああ、お帰りなさい」
「島本さんお疲れですね」
「いや、疲れますよ」
正人は彼に声をかけてきた若いメイドの佳澄に言葉を返した。表情にもはっきりとした疲れが見えていた。
「お嬢様の執事というのも」
「そうですか?」
「疲れませんか?」
「楽だよね」
「ねえ」
それを聞いた佳澄は隣でチョコレートクッキーを摘んでいる同僚に顔を向けて声をかけた。その同僚も彼女に同意して頷くのであった。
「お嬢様お優しいし」
「よく気が利かれる方ですし」
「何処が?」
だが正人はメイド達のその言葉に顔を顰めさせて言い返すのであった。彼にしてみれば彼女達の言葉は何処が、といった感じだったのだ。
「あのお嬢様の執事になってから大変なんだけれど」
「そうなんですか」
「大学を出てすぐにこの家にお仕えしたけれどさ」
これは彼の家の決まりであった。学校を出たらすぐにこの家に仕える。そうして代々生きてきているのである。なおこの部屋にいるメイドや運転手達も同じなのだ。だから彼等はこの四条家にとっては家族も同然なのである。正人もこのメイド達や運転手達のことはそれこそお互い若い頃、赤ん坊の頃から知っている。当然紗智子に関してもだ。彼はその紗智子に対してまた言うのだった。
「昔からの御気性がさらにきつくなっていて」
「お嬢様昔からとてもお優しいですよ」
「そうですよ」
だがメイド達はまた彼に対して言う。
「何かの間違いではないですか?」
「それは」
「そうかな」
正人は彼女達の言葉に首を捻りながら空いている席につく。それから側にある冷蔵庫からアイスクリームを取り出してそれを食べだすのであった。バニラのアイスだ。
「僕昔からお嬢様
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