最後のページを閉じたなら
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るテーブルも椅子も、全てが白い。奥の方に扉が見えるが、それさえも白いという徹底ぶりだ。ただでさえ眩しい色である白が、部屋の光を受けて更に眩しい。
「何だここ……」
呟くが、答えはない。やはりアロマが聞いたという声は気のせいだったのだろうか。扉が開く音がしても何もないという事は、そうなのだろう。
(気のせいか…そう解れば、とっととこの白いトコから出て……)
「……クロ君?」
足が、止まる。
いろいろと巡っていた思考が一瞬にして止まって、砕けて、消えた。
(何で)
真っ先に浮上した言葉はそれだった。有り得ない、嘘だと喚くクロノが自分の中にいる一方で、本当である事を望む自分もいる。
その呼び方をするのは、1人だけだった。からかうようにそう呼ぶ人もいたけれど、クロノがこの呼び方を許した相手は、今も昔もたった1人。
(嘘だ)
その声は、クロノが知るそれで。6年前を最後に隣から消えた、彼女の声で。
「クロ君なの?……クロ君、だよね?」
死んだはずの声が、呼ぶ。
彼女だけに許した愛称で、あの頃より少し大人びた声色で、クロノは呼ばれる。
隣から突然姿を消した彼女の、柔らかなソプラノ。当時より落ち着きがあるけれど、間違える訳がない。
この声で、この愛称で、クロノを呼ぶのは―――1人だけなのだから。
(嘘じゃ、ない)
信じたい思いと信じられない思いを半分ずつ抱えて、クロノは振り返る。評議院の制服の白いマントが、動きに合わせて揺れた。
その青い目が、映す。
揺れる、セミロングの黒髪。
艶やかな黒に彩りを添える、淡い桃色の花飾り。
桜色のロングカーディガンから覗く、白いスカート。
特別整っている訳ではないけれど、どこか透き通るような魅力を持つ顔立ち。
「…ナギ……」
震える声で呟いた、恋人の名。
もうこの世にいないはずの女性は、目を潤ませて頷いた。
「クロ君……!」
堪えきれずに涙を流すナギの体を、よろけながらも受け止める。首に回った腕は確かにあって、それに気付いた瞬間クロノの頬を涙が伝った。
ナギの背中に腕を回し、抱きしめる。
「ナギ…お前……生きてたのかよ…!」
「うん……生きてる。私、死んでないよ…ここに、いるよ」
噛みしめるように呟かれた言葉に、クロノは抱きしめる腕に力を込めた。
ナギの話はこうだった。
6年前、“話がある”と呼び出されたナギは、何者かによってカトレーン邸へと連れ攫われた。その後目を覚ましたナギを待っていたのは、当主シャロン。
『あなたのような低俗の女は
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