コヨミフェイル
007
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最後の夏季講習が終わり、戦場ヶ原と共に途中まで下校する。
既に時計の針は二時半過ぎを指し示している。
太陽はいまだ膨大な熱を放出していて、まるで気温が下がる様子はなかった。
にも拘わらず、横を歩く戦場ヶ原は至って普段通りで涼しそうにしている。
「何をじろじろ見ているのかしら」
平坦な口調も変わらない。
「いや、全然汗かかねえんだなって」
「ふーん。……要するに阿良々木くんは汗に濡れた私を視姦したかったのね」
「僕はそんな変態じゃねえよ!」
「なら、汗に濡れた私を嗅ぎたい変態なのかしら?」
「僕はそんな変態でもどんな変態でもねえよ!それともお前は彼氏が変態であってほしいのか?」
その方がよっぽど変態だと思うけどな!
「変な言い掛かりはよしてよ。誰が阿良々木くんは私の彼氏だと言ったのかしら」
「何故そっちを否定する!」
自分が変態ではないと否定すればいいじゃないか!
変態という汚名よりも僕と恋人関係である方が嫌って、僕はどれだけ嫌われてんだよ!僕が戦場ヶ原に捧げてきた時間はどうなるんだ!
「冗談よ。阿良々木くんが私の彼氏じゃなかったときなんてないわ」
「それも冗談なんだろうけど、まあ、そうであってほしいなとは思うな」
戦場ヶ原と出会ったのは五月八日。
あの日のことが昨日のことのように思い出せる。
確かあの日も今日みたいに遅刻気味で階段を駆け上っていたときに戦場ヶ原が真上から降ってきたのだったな。
今日は災難が降ってきたけど。
「だけど、無理のありすぎる願いね」
「……どうだろうな」
小学生のときならば、戦場ヶ原はただの病弱の女子で、僕はただの、本当にただの他校の男子。中学生のときならば戦場ヶ原は後輩や同級生から慕われながらも母親が悪徳宗教にのめり込んでしまった女子で、僕はやはりただの他校の男子だった。
二人には接点なんてなかった。
しかし、あったとしたら。
僕が戦場ヶ原の通っていた小学校か、中学校に通っていたら。そして、戦場ヶ原の境遇を耳にして入れていたして、僕は戦場ヶ原を助けただろうか?
戦場ヶ原の病弱の体を治したり、彼女の母親を改心させたりできたのだろうか?
できなかっただろう。医者でもカウンセラーでもなかったただの一介の男子の僕ができたことは何一つなかっただろう。
「まあ、そんなことを話したところでしようがない。それより、差し当たりはデートのことだな」
「……待ちきれないのね」
「まあな。まだ、二度目だし」
出会ってから三ヶ月経って一度しかデートに行っていないことは時期が時期だから仕方がないのかもしれないけれど。
「そうね。用意ができたら、連絡してあげるから、せいぜい首を洗って待っていることね。じゃあ、勉強頑張ってね」
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