コヨミフェイル
007
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てからゆっくり考えればいい」
「はい……?」
八九寺の顔が一瞬で恐怖の色に染まったが、そんなことは僕の与り知るところではない。いや、恐怖の色に染まった顔にまた何とも言えず、甘美な感覚を覚えることぐらいしか与り知らない。
二度も会えたんだ。
この吉事を有効活用しないわけにはいかない。
じりじりと摺り足で一歩ずつ八九寺に迫った。
八九寺は恐怖で身じろぎ一つさえ叶わない状態にあるというのに、健気にも一歩後退さろうとして脚が縺れ、尻餅をついた。
その大きな隙を僕が見逃すはずも無く、八九寺が尻餅をついた瞬間八九寺に襲い掛か――もとい、ハグをしようと一歩踏み出そうとした。
しかし、八九寺にハグはしなかった。
虫の知らせか、僕はその一歩を躊躇った。
それが幸いした。
目の前に黒光りする幅四センチほどの反りがついている何かがどこからともなく顕現した。
数本の髪が少しの間をおいてハラハラと落ちる。
恐る恐る目線を落とすと、それは僕の足元の影から伸びているのが目に入った。
紛れも無く妖刀『心渡』だった。その透き通った刀身に僕の顔が映し出されていた。
少しの間、僕と八九寺はまるで時間が止まってしまったかのように微動だにしなかった。
やがて『心渡』はゆっくりと影の中に沈んでいって、完全に見えなくなったところで今度は『心渡』の現所有者が飛び出してきた。しかも片手を突き上げていたために、綺麗にアッパーを喰らう形になってしまった。
「お前様は感情を起伏させるでないと、儂に何度言わせれば気が済むのじゃっ!お前様のおかげでおちおち昼も眠れはせんわ!」
忍が怒り心頭に発しながら言った。
忍は華奢で小さな体躯を純白のワンピースで包み、金色に鋭くぎらつく瞳を隠すように鍔広のワンピースに見劣りしないほどの純白の帽子を被っている。その帽子から目が眩むほどの煌めく艶やかな金髪が踝まで垂れ下がっている。
今では愛くるしい幼女の姿であるが、今年の春休みまでは僕の身長を遥かに上回る身長とはちきれんばかりの胸を備えた絶世の美女、もとい吸血鬼と言っても過言ではない姿だった。
容姿もさることながら怪異としての力も位も天下無比だった。
エナジードレインと不死身性。
それが、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードを鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼、最凶最悪の怪異の王たらしめるものだった。
しかし、今では容姿、スキルとともにその名も僕に奪われている。
あの僕と忍の傷物となる物語はあまり口にしたくないのだが、大まかなあらずじだけ触れよう。
今年の春休みに僕は瀕死のキスショットに遭遇して浅はかな善意で救い吸血鬼に成り果てた。忍野の力を借りて人間に戻るべくキスショットを退治しにきた三人と渡り合った末に辛くもキ
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