赤の少女が求めしモノは
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しなぁ……」
このままでは置いて行かれてしまうのではないか、と悩む季衣の頭に、秋斗はポンと手を置きなおして微笑んだ。
「間違えずにいればいつも通りお前さんが背中を見せる側で居れるぜ? 戦うだけじゃないってとこ、見せてやれ」
「もう! 撫でるのは許したけどそれはダメ!」
「おっと」
「べーっだ! 兄ちゃんのバカ! じゃあえーりん、また後でね!」
「うん、また夜に」
秋斗には舌を出して、詠には元気よく声を上げてひまわりのような笑顔を詠に向けた季衣が駆けて行く。ひらひらと手を振って、二人はその背を見送った。
見えなくなってから、秋斗は大きく息を付いた。
「……えーりん」
「えーりん言うな、バカ」
声音は真剣そのモノで、落ち込んでいる時の彼のモノ。もう、秋斗の心の動きはある程度分かる。だから詠は少しだけ冗談交じりに声を返した。
小さな苦笑が一つ。気遣いに礼も言わない。言わなくても分かってくれると、彼も知っている。
「許緒と典韋には内緒だが、万全を期す為に親衛隊には一つの指示を与えてある」
「官渡での防衛の話ね?」
「ああ。最後まで残るのは許緒と典韋だからな。あの二人が死なないように。そして確実に袁紹軍を潰せるように」
――史実の典韋が死ぬのは官渡が起こる前のはず……ズレちまったもんがあって、もし何処かしらで危機に瀕する事があるんなら……他の命を対価に守るだけだ。
未来知識の事柄など、誰にも話さずにいるべき。秋斗が張る予防線など、誰にも分かるはずが無い。
ふい、と顔を上げて秋斗の瞳を覗いた詠は……凍りつく。渦巻く黒が、見た事のあるモノであったから。
揺れているのは誰かを切り捨てる時に浮かべていた闇色。非情な命令を下す時の、黒麒麟の輝き。
「あんた……戻ったの!?」
震える声が紡がれた。胸が締め付けられる。まさか、と思った。彼が戻ったのではないかと、淡い期待が胸を埋める。
脈打つ鼓動は抑え付けれるはずもない。がしっと彼の腕を掴んで、詠は縋り付いた。
されども、彼はふるふると首を振る。
「いんや。ただ、黒麒麟もこんな気分だったんだろうなぁ」
落ち込む心、歪む眉、視線を合わせる事も出来ない。
「そう……よ、ね……」
当然だ。彼が戻ったなら、詠の事をちゃんと真名で呼ぶはずなのだから。
戦場を見ても戻らない。人を切り捨てる方策を立てても戻らない。ならもう、彼が戻るには人を殺すしかないのだろう。詠はそう考える。
勘違いさせてしまった為に、彼の胸に一筋の痛みが走る。皆が待っているのに、何故戻れないのか……哀しくてしかたなかった。
今は落ち込んでいる時では無いのだ。心を切り替えて、彼は話をずらしに掛かった。
「官渡の防衛策はギリギ
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