第3部 始祖の祈祷書
第5章 工廠と王室
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ると、ボーウッドはもう、何も言えなくなってしまった。
彼にとっての軍人とは物言わぬ剣であり、盾であり、祖国の忠実な番犬であった。
誇りある番犬である。
それが政府の……、指揮系統の上位に存在する者の決定なら、黙って従うよりほかはない。
「……アルビオンは、ハルケギニア中に恥をさらすことになります。卑劣な条約破りの国として、悪名を轟かすことになりますぞ」
ボーウッドは苦しげに言った。
「悪名?ハルケギニアは我々レコン・キスタの旗の下、一つにまとまるのだ。聖地をエルフどもより取り返した暁には、そんな些細な外交上のいきさつなど、誰も気にはとめまい」
ボーウッドは、クロムウェルに詰め寄った。
「条約破りが些細な外交のいきさつですと?あなたは祖国を裏切るつもりか!」
クロムウェルの傍らに控えた一人の男が、すっと杖を出して、ボーウッドを制した。
フードに隠れたその顔にボーウッドは見覚えがあった。
驚いた声でボーウッドは呟いた。
「で、殿下?」
果たしてそれは、討死にしたと伝えられる、ウェールズ皇太子の顔であった。
「艦長、かつての上官にも、同じセリフが言えるかな?」
ボーウッドは咄嗟に膝をついた。
ウェールズは、手を差し出した。
その手に、ボーウッドは接吻した。
刹那、青ざめる。
その手は氷のように冷たかった。
それからクロムウェルは、供の者たちを促し、歩き出した。
ウェールズも従順にその後に続く。
その場に取り残されたボーウッドは、呆然と立ち尽くした。
あの戦いで死んだはずのウェールズが、生きて動いている。
ボーウッドは『水』系統のトライアングルメイジであった。
生物の組成を司る、『水』系統のエキスパートの彼でさえ、死人を蘇らせる魔法の存在など、聞いたことがない。
ゴーレムだろうか?
いや、あの体にはきちんと生気が流れていた。
『水』系統の使い手だからこそわかる、生物の、懐かしいウェールズの体内の水の流れが……。
未知の魔法に違いない。
そして、あのクロムウェルはそれを操れるのだ。
彼は、まことしやかに流れている噂を思い出し、身震いした。
神聖皇帝クロムウェルは、『虚無』を操る、と……。
ならばあれが『虚無』なのか?
……伝説の『零』の系統。
ボーウッドは、震える声で呟いた。
「あいつは、ハルケギニアをどうしようというのだ」
クロムウェルは、傍らを歩く貴族に話しかけた。
「子爵、君は竜騎兵隊の隊長として、『レキシントン』に乗り込みたまえ」
羽帽子の下の、ワルドの目が光った。
「目付け、というわけですか?」
首を振っ
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