漂流民―水相におけるイグニスからネメス―
―2―
[5/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、体に合うよう縫い直したのだが、それでも余分の布が邪魔で仕方がない。侍祭の地位を世襲したものの、その地位の象徴である法衣を高等神官に返上し、自分の体に合う法衣を授かるには、ウラルタの予想を上回る金が必要だった。
あと何年、何か月、何日我慢を続ければ、大人になれるだろうか。その間、何年、何か月、何日も、本当にこの説教と祭祀の時間を耐えなければならないのだろうか。そうだ。父も祖父もそうして来た。先祖たちはそうして来た。陸を失ってから。
「汝ら永遠に呪われて、この水相をあてどなく彷徨い歩くを望むか。汝の父、母、汝の子らがその定めを歩むを望むか!」
「いいえ! 決して!」
しばし、高等神官も聴衆も口をつぐむ。蝋燭の灯と香炉の煙が揺れ動き、高い天井に吸いこまれてゆく。
天井には、失われて久しい青空が描かれていた。
空が青いなどと、ウラルタには信じられない。
「我らは罰を受けた」
高等神官の一転して静かな声もまた、偽りの空に吸い上げられてゆく。
「我らは虚飾の罰を受けた。我らは不義と不貞の罰を受けた。我らは過ぎたる享楽、過ぎたる屠殺、過ぎたる怠惰の罰を受けた。我らは嫉妬と強欲で自らを貶めた。我らは憤怒と傲慢で自らを失った」
罰。ああ。ウラルタは天井を仰ぐ。
「神は我らに罰を与えたもうた。その罰を全うすることで我らを赦したもうと約束された。汝らはそれを疑うか!」
「いいえ!」
「罰とは漂流であり、この水相を生きる事である!」
ウラルタは、くらくらと眩暈を感じ、目を閉じて俯いた。
「神は水相から陸地を奪いたもうた。しかし慈悲を下さった――世界各地でこのような町を形成し、漂流の準備にかかる猶予を下さったのだ。そして、罰を信じた民のみが、生き延び、罰を受ける事を許された。汝ら、神の大いなる御業を疑うなかれ――」
ウラルタは口を開け、喘ぐように呼吸をした。
生きる事が、生まれた事が、罰。罰を途中で放棄するならば――即ち自ら命を絶つならば――もう一度はじめから、罰を受け直さなければならない――この水相で、輪廻転生を繰り返すことで――。
ああ、そのように信じていなければ、町が、水相の全ての町が、共同体を維持できなくなる。
まっすぐ立っていられないほど具合が悪くなってきて、ウラルタは背後の側廊まで後ずさった。
「死後彷徨う者は、神を疑いし者である。罰された理由を理解せず、嘘をつき、不義不貞を働いた貪欲の輩である。神の光に背を向け、傲慢、憤怒、怠惰、強欲と手を結びし者である。して、彼の者らは死後、転生を待つ間、更に過酷な生を送らなければならぬ。呪われし者に災いあれ――我ら敬虔なる神の子羊に幸いあれ――」
ウラルタはよたよたと側廊を通り抜け、奥の扉を音を立てずにくぐった。そして、裏口から寺院を出た。
この人生は罰
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ