第11話 イタ電
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だ。さぁ、どうする?》
「……」
小倉は、自分に迫ってくる田中の声を聞きながら、画面を見つめた。発信ウィンドウと、メモ帳ウィンドウに記載された文章、それらを交互に見る。さっき、田中は後10分と言った。時間はそれほど残されてはいない。しかし、本当に田中の言うがままにこれをやって良いのか?田中の言った通り、偽情報を流すなんて、自分も罪に問われかねない。そもそも、田中の置かれている状況の説明というものが、まずもって素直には信用できない。どうしてだ?なぜ、いきなり、そんな命の危険に晒されてやがるんだ?昼間の、いつもの平和な学校生活から、一体どうやったらそんな状況にボソンジャンプできるんだ?おかしい、マトモじゃない、狂ってる……
小倉が固まったようになっていても、命の危険に晒されているはずの田中当人は、答えを黙って待ち続けていた。時計の針が進んでいく。沈黙が続く。
「……チッ!」
小倉は舌打ちと同時に、通話アプリの発信ボタンをクリックした。
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《さすが、一回目の実験はクリアだ!ありがとう謙之介!助かったよ!》
「…………」
画面の向こうでは能天気な声がしているが、小倉は椅子にどっと深く腰掛けて息をついていた。こんなに電話で緊張したのは初めてだった。出たのは中年の男の声で、疑われる事なく連絡は受理されたが、自分の声が震えていないか、異常に気付かれていないか、気にすれば気にするほど、声は出にくくなった。
《いやー、しかし、謙之介の俺への愛も中々なもんだなぁ。信じてもらえるかどうか、五分五分だと思ってたんだけどな》
「……うるせぇ。イタ電くらいじゃ、拷問されて殺される事はあるめぇ。でも、イタ電かけなきゃ、お前はそうやって殺されるんだろ?……リスクの少ない方をとっただけだ」
《その合理的判断の前提になったのは、俺の言葉で、結局謙之介は俺の言葉を信じたんだろ?心配してくれなくていいよ。謙之介の声はちゃんと加工されて元の声が分からなくなってるし、回線も足がつかないように細工はキチンとしたから。》
更に小倉はへたり込んだ。つまり、今田中が言ったような細工が全て完璧でなければ、足もつくし、普通にバレてしまうということだ。思った以上にリスキーな決断を衝動的にした自分が恐ろしくなった。
「何故だ……」
《え?》
「そこまで危ない状況なら、さっさと逃げれば良いじゃねえかよ。俺なんかと、こんなお遊びしてねえで」
《それはダメだ。愛の実験は何としても実行しないといけない。大事な事だからね。また次を用意するよ。首を長くして待っててくれ。それじゃあね。今日は信じてくれて、ありがとう!》
その一言を最後に
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