Interview7 「お母さん」
「母親を守ってやらなきゃ」
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ルドガーは目を覚ました。
頭にまだ霞がかかっている。ここがどこで、何をしていて、何故眠っていたか思い出せない。
「ルドガー」
呼びかけのただ一声。それだけでルドガーの頭は急速に覚醒した。
エルが見当たらなくて探していたところを、例の妙な世界に迷い込んだ。源霊匣ヴォルトにやられそうになったイリスを助けるためにルドガーは雷撃を受けた。
頭だけを横に向ける。やはりイリスがベッドサイドに座っていた。
イリスは研究所の職員の制服を着ていた。制服の布地はとっくに黴だらけで、布の端々は少しずつ腐ってリノリウムの床に落ち続けている。椅子も刻一刻と錆が滲み出していた。これが、「蝕む」。
「……怪我、ないか」
ルドガーが発した一言で、イリスの翠眼は険しさを増した。
「イリスは怪我なんてしてないわ。一切合切、これっぽっちも」
「そうか。よかった」
「よかった、じゃないわよ」
イリスはベッドに上がると、ルドガーに覆い被さり、厳しくルドガーを見据えた。
「なぜあんなことしたの。イリスは簡単に死なないって知ってるでしょう。貴方の体は人間なのよ。骸殻もまとわず精霊の攻撃を受けたりして。貴方が死んでいたかもしれないのよ」
「怒ってる……のか?」
「怒ってないわ。ただね、イリスは悲しい。ルドガーが、ルドガー自身を大事にしてくれなかったから。自ら命を危険に曝して、こんな傷まで負ってしまったから」
イリスの手がルドガーの胸板を撫でた。くすぐったくてもぞりと動くと、引き攣るような痛みが走った。どうやら自覚よりひどい傷だったらしい。
「ねえ、ルドガー。なぜイリスなんかを庇ったの?」
「……『なんか』なんて言うなよ」
ルドガーは腕を伸ばし、覆い被さるイリスの頬に手を当てた。
「イリスが俺たちを自分の子ども同然に想ってくれてるみたいに、俺はイリスのこと、母親みたいに思ってるんだ。母さんに似てるからじゃない。もっとこう、体の奥底で感じてるんだ。ああ、この人は俺たちが産まれた苗床なんだ、俺たちの『お母さん』なんだって」
イリスは目を見開いた。ルドガーと同じ翠の虹彩。始祖クルスニクの色。この色に染まるために生前のイリスは自らの体を造り替える処置さえ受けたのを、ヴェリウスとシャドウの夢の中で知った。彼女はそれほどにミラ・クルスニクを愛していた。
「お母、さん? イリスが? イリスをそう呼んでくれるの? そういうふうに見て、くれるの?」
ルドガーは笑って頷いた。
存在が醜悪でも、呼吸が害悪でも、抱擁が凶悪でも、涙が罪悪でも。
「俺は男なんだから、母親を守ってやらなきゃ、だろ」
イリスはクルスニクの血を引く自分たちの、母なるひとなのだから。
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