Interview7 「お母さん」
「それが一番、救いがない」
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ルドガーは瞼を開けた。
一面に広がる闇を、一面に広がる白砂が仄かに照らしている。こんな景色は知らないし、いつここに来たかも分からない。だがその不条理をルドガーは冷静に受け入れる。
何故ならここは――夢の中なのだから。
「どうして俺にこんなものを見せた」
声に応えるように空気――否、闇が蠢き、体積を持った。
頭、肩、両腕、胸板、両足。ヒトの形を模そうとして、アート要素を足し過ぎたような「影」のオブジェが出来上がった。
「お前が俺にこんな夢を?」
『オレじゃない。オレはただ見やすいようにイメージを具現化させただけだ』
「本当か?」
『ああ。本当だとも』
『――アナタにそれらを観せたのはボクですよ』
第三者の声。ルドガーは頭上を仰いだ。
りりりぃん
清冽な鈴の音を奏でながら、一匹の狐が「影」の横に並んだ。闇と白砂のツートンの空間で、オーロラ色の毛並を輝かせる九尾の狐。
『来たか。遅いぞ、ヴェリウス』
「お前が?」
『正確にはある者の心をボクが汲み上げ、そこなる影の大精霊シャドウに具現化してもらいました。夢は心に溜まったものを整理する時も兼ねます。その中に、ほんの少し、他者の心のイメージを入れ込ませて頂きました』
「お前も精霊なのか? 何の精霊なんだ?」
『名はヴェリウス。「心」の大精霊です。心を持つあらゆる命の代弁者にして守護者』
「心の、精霊」
精霊の中には抽象的な属性を司るものもいると知識では知っていが、「心」にまで精霊が付いてくるとはついぞ知らなかった。精霊研究家のジュードに報告すれば喜ぶかもしれない。――と、それは措いて。
「今俺が観たのは、ひょっとしてイリスの『心』か?」
ルドガーたちクルスニクを創った女。ただの集団を一族へシフトさせた立役者。
生き方、いびつな理想、母代だった始祖への狂的な愛と献身。
自らの血肉を異形に食わせてでも精霊に負けまいとした、「人」の矜持。
『正解です。目的のために手段を択ばない。彼女はクルスニク血統者の雛型です。感想はありますか、クルスニクの末裔』
「……俺が同じ立場だったら、さっさと一族見捨てて精霊の主に付いてっただろうな。現実があれだけどうしようもないんじゃ、別の世界に逃げ込みたくもなる」
『彼女は愚かだったと?』
「大バカだよ。あの人だけじゃない。周りにいた奴、どいつもこいつも大バカ野郎だ。バカを通せるくらい――イリスも始祖も始祖の理解者たちも、強かった。それが一番、救いがない」
ほんの欠片でも弱さや汚さがあれば。どこかで諦め、自らをごまかし、生き延びる道もあっただろうに。誰も彼もが強すぎたから、次々走り抜けて逝ってしまった。
どんな大義名分で没しようと、
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