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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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いうのだったか、あれも龍口湾に移したようだ。こちらに来るだろう」

「第二軍の尻を叩いておりますが、まだどうにも。幸い天候が落ち着いていますから兵員の輸送を優先しておるようです」

 ――間に合わない場合は重装備を放棄するという事か
 東州の工業力は低くはないが、それでも補充に時間がかかるのは目に見えている。

「第三軍は現在龍岡付近に再集結を行っております、主力は弓野経由で内王道を利用するつもりですね、数日間、汎原近く、伏瀧川渡河点に後衛戦闘隊を展開して時間を稼ぐようです、転進終了後は蔵原にて集結し、虎城防衛線に合流する予定です」

「近衛総軍は?」

「新城少佐を指揮官とした後衛戦闘隊が史沢付近にて後衛戦を行っております、各軍からの遊兵――逃げ遅れた連中を指揮下に組み込みながら司令部と禁士隊が汎原へと向かっております、連中も東沿道に合流する大街道ですのでしばらくはこちらの支援を兼ねて残るでしょう」
つまりはどちらも伏瀧川で逃げる時間を稼ぐつもりなのだ、第三軍は虎城防衛線に参加している陸軍部隊の為に合流を優先し、近衛総軍はその主力となる近衛衆兵隊のほぼ全軍を新城直衛に預け、遅滞戦闘に投入している。
 要するに優先順位の問題であるのだ。近衛は禁士隊さえ無事ならば政治的な問題はない。
極論すれば衆兵隊が全滅しても五将家のだれもが心の底から献身を讃える事すらできる、少なくとも恨みを買った事に怯えることはないのだから。
 
「であるならば、敵の追撃はまだ凌げているという事か。二日間、五万もの兵を足止めできているからだな、悪くない取引だな」
 とはいえ残りの五万を相手にせざるを得ないのだが、それだけでも大打撃をこうむるだろう。
「あとは青旗でもあげますか?」
 有坂が投げやりな口調で尋ねる。
「まだもう少し粘ってみる価値はある、この場の兵共まで動かれたら虎城防衛線が崩壊するぞ」
 事実である、この場にいる砲兵はまだいい。追撃戦では軽砲以外はさして重要ではないのだから、だが工兵やら師団やらは追撃には欠かせない、師団は言うまでもなく、工兵とて橋梁やら街道の修復に従事する技術者集団である。
 いかに犠牲を減らし、虎城に逃げ込むかが肝要であるのだからまだ降伏などという選択肢はない、二万の兵でもって五万の兵を足止めし続けるしかないのだ、自身の生まれ育った街に、村に、国に、愛情を持ち、そして死を覚悟し、それでも何かを残したいと思う者ならば尚更に。

「……来たな」
 擲射砲の砲声が次々と払暁を迎えた朱色の大地に響く。そしてそれに倍する砲声が撃ち返し、着弾した――



同日 午前第七刻 東方鎮定軍第2軍団司令部
東方鎮定軍第2軍団 軍団長 アイヴァン・ルドガー・ド・アラノック中将


いまだ準備砲撃が行われてい
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