第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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まフリッツラーに任せて我らは逃走中の敵を狩るというわけにもいかん、殿下の不興を買うであろうし、本領軍としての立場もある」
厄介な後衛軍を辺境領軍におしつけたといわれると後々面倒なことになる、そうしたことを好まないから上層部は己を選んだのだろうとアラノックも自覚していた。
「はい、閣下。それについては御説の通りです。ですが戦はまだ始まったばかりです。
それにまだユーリア殿下の御膝元でもあります」
「ほう」
アラノックは鷹揚に続きを促した。
「殿下が御手ずから導入なさった龍兵をお借りしましょう。龍口湾の戦いでも騎兵師団の突破支援に大きく貢献したと聞いております。功を分かつという点でも悪い取引ではありませぬ」
「使えるようなら今後も使うことも検討できるな」
アラノックにとってこの追撃戦は得意とするものではない、彼の本領は大規模な軍同士の決戦――会戦である、あれこれを部隊を散らす追撃戦は好みではない。
ゆえに足の速い龍兵を用いて師団の拘束を解き、龍州軍の壊滅をもってより多くの戦力を龍州西部に展開することを望んでいた。
「はい、閣下。龍爆の効果が期待できずとも偵察に使えるだけでこの追撃戦では大いに貢献が期待できます」
「殿下に将校伝令を出すか――ラスティニアン」
「はい、閣下」
「本領軍の意地を見せるぞ、2日で陥とす。これは攻城戦だ殿下と蛮族どもに本領軍ここにありと見せつけるのだ」
アラノックは自身もよく知る戦に身を投じることを自覚し、重厚さの下に活力をみなぎらせていた。
「はい閣下。ユーリア殿下に本領軍が精華を御照覧いただきましょう」
七月二十五日 午前第六刻 龍州軍 砲兵陣地
龍州軍司令部 戦務主任参謀 草浪道鉦中佐
参謀という職務は知能だけで成り立つものではない、常に状況を把握し続ける為には動き回り、前線を直接見なければならない、将校に騎馬が許されている理由の一つだ、少なくとも草浪はそう信じている。
「壕の準備に二日、敵は一個師団に砲兵一個旅団に工兵一個旅団、
これはいよいよと言ったところでしょうかな、完全に〈帝国〉軍の連中、要塞戦をする気ですよ」
軍次席参謀の熱田が言った。彼と共に視察に出るのはもっぱら衆民出身の幕僚が多い、ほかの将家出身の参謀たちは司令部にこもることが多い。
――まぁ司令官があそこまで怯えて見せては誰かしらが尤もらしくそばに控えていないとならんのだろうが。
須ヶ川大将は五将家のいずれにも与さなず、政治的野心も持たない高位の貴族である、であるが故に都合の良い妥協点として五将家体制の下で有能な五将家出身の陪臣格や分家が権限を分かち合う中で軍歴を歩み続けてきたのである。
「だろうな、連中、一撃でケリをつけるつもりだ。龍兵の拠点――龍巣と
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