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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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伏龍川である。これは龍州最大の河であり、天龍が住まう龍塞山脈東部を水源として龍州を北西から南東にかけて横断し東州灘へと流れる。そしてもう一つは亢龍川だ。この河は龍塞山脈西端を水源とし、伏龍川支流と合流し龍口湾へと流れる。
 この伏龍川の本流と支流の分岐点にあった泉川は材木加工と並び、龍賽沿いの都市から材木を運び込む河川を利用した運輸が発達している――北領開発に注力するようになってからは龍口湾と主要街道を結ぶ為に万単位の軍が利用できるほどの街道整備が行われているが――最悪でも河川を利用する事で迅速な集成第二軍との合流を行えるという点もあってこそ籠城戦を挑むことを草浪は決断したのであった。内陸部における迅速な撤退手段として水運が使えることは大きい、昼間は危険であるが夜陰に乗じて逃げ出す手段としては最適である。

「まぁそうした船団を収容可能な設備を持つ都市は〈大協約〉保護下の上に避難民受け入れているから軍は受け入れません、小規模な船着き場に分散するしかないのが痛いです」
 
「兵站に負荷を与え、追撃の勢いを殺すためだ、致し方あるまいよ」

「疎開といっても持ち出せない糧食は我々が買い上げか破棄ですからね。
慌てて六芒郭にまで運び込ませましたよ」
「〈帝国〉軍やら東州やら売りつけ先は幾らでもいるから穀物商連中が買占めているという話も聞いた」
 東州は穀物の自給率が低いため、軍だけでなく民間の穀物商も儲けと『御国と民草の為に御蔵を開く』名声の為に競い合って買い付けを行っている。
「これも御国という事ですかね、占領下でも儲けられるものなのでしょうか」

「それこそ商家の戦というものなのだろう――来たな」
 兵たちの動きが変わる、導術兵たちがあちこちに早足で向かう、すべてが望まぬ未来へと動き始めたことが分かった。

「――戦務殿」
 有坂が珍しく緊張した様子で望遠鏡を差し出した。

「白い軍装――〈帝国〉本領軍か、皇都が見えてくるとなるとやはり出てきたな」
 ――〈帝国〉は既にどう勝つかを考える段階に入っている。
草浪はその考えを当然のこととして想起し、検討し、受け入れた。だがまた同時にこの戦いを生き延び、祖国を延命させる術を思索し続けている、だからこそ護州随一の切れ者と呼ばれるようになったのだ。
「どこまで北領の真似事ができるか試してみようではないか」



同日 午前第七刻 東方鎮定軍第2軍団司令部
東方鎮定軍第2軍団 司令官 アイヴァン・ルドガー・ド・アラノック中将


「増援に感謝いたします、アラノック閣下」
 フリッツラー第15重猟兵師団長は派兵された本領軍の総司令官と相対していた。

「なんの、友軍の危難を救うためとあらば、何処に属するかなぞ大した問題ではあるまい、ただ陛下の敵を打ち倒し、同胞
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