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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十五話 朱に染まる泉川(上)
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った二個師団は大半が混乱に陥り、龍州軍・近衛総軍が早期に、秩序だった撤退に成功した事で一時的に敵軍の追撃を防ぐことに成功した。
しかしながらそれももはや意味がない。ブラットレー少将の統率宜しきを受けた第15重猟兵師団を主力とした部隊は既に自分たちを包囲し、攻城戦めいた塹壕掘りを行っている。
「そうか。 第二軍はどれほど持たせろといっておるか?」

「最低でも今日を入れて四日――二十六日までは持たせろと、これでもまだ手際が良いというべきでしょう」
さて、二度の敗戦を経て、国土の東半分を<帝国>に譲る事をほぼ完全に決定づけられた<皇国>軍であるが、結果としての評価はどうであれ、彼ら自身はけして無能ではない。
もちろん組織としては様々な構造的な欠点を抱えており、統一的な意思を決定するまでの過程などは特に顕著であるが――兵站組織の発達はこの<大協約>世界でも随一であったし、その兵站組織の一要素として運輸能力もその正面戦力からはとても見合わぬものであった。
「・・・・・・」
とはいえその運輸能力を発揮させる時間を稼ぐ為には時間が必要であるのは当然であり、そしてその時間の代価に彼らは<大協約>世界最強の陸軍と相対しなければならないのであった。



 市のはずれからかつての州都をとりかこむそれを眺め、草浪は素直に感嘆した。
「よくもまぁここまで、といったところだな」
都市を囲むように張り巡らされた銃兵が身を隠す塹壕、砲兵陣地、そして集積所を結ぶようにして作られた移動用の壕、動員を進めていた後備部隊と兵站部の要員、そして軍に“志願”する形で相応の報酬を受けた土建屋達の突貫工事によって作られたものであった。

「時間の割には中々のものです。とはいえこれで十分といえるかどうかは怪しげな物ですが、なにしろ〈帝国〉軍で相手にあの竜までもいますからな」
 軍兵站次席参謀の有坂大尉はむっつりとした顔で言った。

「ここでどこまでしのげるか。さすがに二万超の軍が交通の要衝に籠っているのだ、無視はできないだろうが」

「四日も稼げれば万々歳ですな。龍州軍が州都を使い潰してどうにか四日、それも龍兵が投入されたら怪しいものだときたものです。いやはや戦乱の世というものはなんとも」
 あっさりとした口調で有坂が言った。この手の率直かつ実直さには事欠かぬ男であったが、諧謔という物を理解できず、そのため指揮官としては適正に掛けると周囲から評価されていた。

「幸い、重装備を逃がす目途もある、どうにかなればよいが」
 泉川が州都として発展してきた要因として皇龍道と内王道が合流する汎原、東州との航路を結ぶ貿易港・伏津と伏龍川で北領との貿易港である龍口湾と伏龍川支流で結ばれている事がある。
 龍州の河川は細かな支流・分流を除けば二つしかない、一つは
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