第1章 群像のフーガ 2022/11
7話 露見する真意
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だが、届かなかった。イルファングが始動させたソードスキルのサウンドエフェクトに掻き消された。
獣の巨体が、地面を揺るがせて垂直に跳ぶ。腰溜めに構えて空中で身体を極限まで捻り、着地と同時に溜め込んだ破壊力を深紅の輝きと共に命を削る竜巻として撒き散らす。
それは、持ち得ていた情報を逸脱する、まさしく想定外の痛恨事だった。
――――《刀》専用ソードスキル、重範囲技《旋車》
怖いほどに鮮やかな赤い閃光に飲み込まれ、C隊はその平均HPを5割まで落とし、さらに地面に倒れ込んだまま動かない。頭部には黄色の光が旋回し、一時行動不能状態となっているのがわかる。俺も度々狙う状態異常であるからよくわかる。持続時間は長くても十秒程度だが、プレイヤーがこれを受けると即時発生であるために回復手段がない。それゆえ、前線のメンバーがスタンした場合は、間髪入れずに仲間が飛び込んでタゲを引き受けるのが模範的な対処法となる。
……だが、現時点で行動できる者は誰一人としていなかった。綿密な作戦会議を経て、これまで大きな失敗もなく戦闘が進み、誰もが無事に終わる事を考えていたことだろう。だが、事態は一転してリーダーであるディアベルが打ち倒されてしまい、これまでの余裕綽々といった空気は既に平常心と共に失せてしまっていたのだ。それが、C隊以外の前線メンバー全員を縛り付ける鎖となって、周囲は痛いような静寂に包まれる。居ても立っても居られずボスに向かって駆け出したものの、距離があって間に合わない。コボルド王の技後硬直も回復し、低い姿勢から立ち上がる。
「追撃が………」
キリトの叫び声と同時に、前線からやや離れた位置に待機していた両手斧使いのエギルと以下数名が動き出すも、スキルの発動を食い止める事は叶わなかった。
地面すれすれから掬い上げるような剣閃、刀スキル単発技《浮舟》が放たれる。抵抗もできないまま、薄赤いライトエフェクトを受けた青髪の騎士が宙に浮かされた。そしてコボルド王はこの次に控える剣技を繰り出すべく動き出す。
絶望的な状況だが、幸いまだ間に合う。今なら、まだ助けられる。ディアベル一人がタゲを取ってくれたおかげで《旋車》の連発による複数人の死亡という状況は避けられている。加えて、《一撃でHPを削り切れるような》ソードスキルではなく、イルファングはスキルコンボによる攻撃を選択してくれた。ならば、これから行使されるソードスキルさえ防げば誰も死なずに済む。《浮舟》から繋がるソードスキルはおしなべて準備動作に時間が掛かる。逆説的な説明をすれば、初動の遅いソードスキルのために《浮舟》で宙に浮かして時間を稼ぐ
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