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その魂に祝福を
魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり5
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だった。しかし、何故殺さなかったのかとは。なかなか難しい事を訊いてくれる。
(ま、理由を挙げろと言われれば、挙げられない事はないが……)
 救済するか生贄にするか。それとも運命に委ねるか。その決断の理由を訊いてくる魔法使いはあまりいない。所属する結社を見れば一目瞭然なのだから。また、それにあえて逆らった場合でも、黙認するのであれば詮索はしないというのが魔法使い同士の暗黙の了解だった。それでも、全くない訳ではない。今までであれば、自分の被った代償を――つまり、生贄にすればするだけ若返っていってしまう身体だからと言えば良かった。
 しかし、今回はそうはいかない。それを言えば、どうせ何故そうなったかも説明しなければならなくなるだろう。それは……正直なところ、かなり不都合がある。かと言って、安易に誤魔化していいような問いかけでもない。 
「世界は不条理に作られている。世界が人間に優しかったためしなど一度もない。その最たるものが『死』である」
 しばらく考え、思い浮かんだのはその言葉だった。
「ペンドラゴンの爺さん……秘密結社アヴァロンの最高指導者である第十三代ペンドラゴンの言葉らしい。……俺の恩師は驚くほど顔が広くてね。面識があったそうだ」
 軽く笑って見せるが――リンディ達は何とも言えない顔をした。どうせ彼女達の中ではアヴァロンは狂人ばかりが揃った極悪非道な組織になっている事だろう。
「だから、人間は生きている間に何かを残そうとする。自分が死んだ後も、自分が生きた証となるものを。たった一言でも、ただ残せばいい。あの爺さんはそう言っていた」
 そのボスがそんな哲学じみた事を口にするのは、さぞかし意外だったに違いない。
「彼女が……アリシア・テスタロッサが残した言葉、彼女の願い。彼女の生きた証。それを本当の意味で受け継ぐのはお前しかいないと思ったんだ」
 お前を殺せばそれすら永遠に失われる。だから殺さなかった――最初は言い訳のつもりだったが、いざ言葉にすればそうでもないように思えた。だが、言い訳と言う事にしておこう。そもそも、こういう説法じみた真似は本来別の――例えばエレインのような人間の役目だ。少なくとも、俺の役目ではない。
「あの子が、生きた証……」
「そうだ。彼女の生きた痕跡は、きっと誰かの希望になる。俺の右腕なんかに閉じ込めておいていいものじゃあない。そう思ったのさ」
 部の悪い賭けなのは分かっていた。それでもあの瞬間、救済する以外の選択肢など思いつきもしなかった。……あるいは、それこそが彼女達の本心だったのかもしれない。
「それに、お前を殺してしまえばフェイトの願いだって永遠に叶わなくなる。理由としてはそれだけでも充分すぎるくらいだ」
 何であれ柄ではない事を言った。それを誤魔化すように付け加える。だが、これは俺自身の本心でも
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