第十四章 水都市の聖女
第四話 理想の王
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うな言葉に、アンリエッタは思わず驚き顔を上げると、じっと自分を見つめるセイバーと視線がぶつかった。
「そ、それは……」
アンリエッタの返事を待つように、無言で見つめてくるセイバー。アンリエッタは何かを言わなければと焦燥に襲われるが、何度となく開かれた口からは結局言葉は形となることなく脆く空気に溶け崩れていく。呼吸が出来ないかのように、苦しげに顔を歪め何度となく口を開き閉じる。そんな様子を揺るがない瞳でアンリエッタを見ていたセイバーは、不意に顔を逸らすと何もない空間へ向け問いを投げ掛けた。
「正しき統治と正しき治世を行う正しき王……そんな王がいるとすれば、あなたはどう思いますか?」
「それは……素晴らしい事だと思います。きっと、それは理想の王です。そう……わたくしとは違う……わたくしが目指すべき理想の王で、そんな人こそ、“王の器”の持ち主なのでしょう」
「そう、ですか……」
唐突な問いに、アンリエッタは内心首を傾げながらも応えを返す。
先程のような答えが影も形も浮かばないような問いではない。
yesかnoのどちらかが答えであり。
そしてその答えは明らかである。
―――少なくともアンリエッタには。
戸惑いながらもハッキリと答えたアンリエッタを顔を動かさず視線だけで見たセイバーは、ふぅ、と小さく息を吐くと気持ちを切り替えるかのように一度目を閉じ、開いて―――口を開いた。
そして、
「―――一つ、昔話をしましょう」
物語が語られる。
「……ぁ」
セイバーの柔らかな唇から溢れる言葉。
「“騎士の王”と詠われた王の話。滅びゆく故国を、民を救うために王となった者の物語です」
一瞬、揺らめいたように感じた。
「アルトリア、さん?」
「……昔、とある国に“騎士王”と詠われる王がいた。滅び行く国を、民を救うために剣を取り、騎士を率いて数多の戦場を駆け抜けた王。しかし、内乱に侵略者……滅びの淵にあった故国を救うことは、唯のヒトでは叶わない望みであった―――だから、王はヒトを捨てた」
「人を、捨てた?」
不吉な言葉が聞き間違いではないかと、思わず聞き返す。自問のようなもので、答えを期待してはいなかったが、予想に反して返事はあった。
「……ほんの微かな迷いが、国を滅ぼす要因となる程の瀬戸際にあった故国を救うには、人としての感情は余りにも危険だったのです」
「―――ぇ」
セイバーの口の端に浮かぶ、微かな苦しみが混じった笑みを見て―――アンリエッタは奇妙な既視感を得る。
「喜び、怒り、哀しみ、楽しみ……それは時として大きな力となりますが、しかし、決断を迷わせる弱さにも繋がります。だか
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