第十四章 水都市の聖女
第四話 理想の王
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「かもしれません」
「酷い人ですね。否定してくださらないのですか?」
少し不満気な、困ったような顔で笑いながら冗談交じりの口調でアンリエッタはセイバーを責める。しかし、セイバーはそれに笑みを返すのでもなく、怒るのでもなく、ただ、静かな顔と口調で諭すようにアンリエッタに伝える。
「その可能性は誰にも否定は出来ません。愚王として歴史に語られる事は有りうるでしょう」
「そう、ですか」
『もしも』の話。
だが、セイバーがそれを口にした時、何故かアンリエッタには思った以上のダメージを心に受けた。肩を落とし、落ち込んだかのように僅かに目線を下ろす。そんなアンリエッタに、セイバーは変わらない涼やかな声で告げた。
「―――逆に、名君として語られる事もあります」
「え?」
有り得ない言葉を耳にしたアンリエッタが、戸惑った声を上げると、セイバーは小さく肩を竦めて口元にだけに浮かぶ小さな笑みを形作った。
「何をそんなに驚いているのですか? あなたが愚王と呼ばれることも、名君と呼ばれることも否定することは誰にも出来ません。未来のことなど誰にも分からないのですから」
「で、ですが」
「愚王と呼ばれていた者が、何十年、何百年経てば、名君だったと変わる事もあります。未来に自分がどう呼ばれるようになるか等、誰にも知ることなど出来はしません」
「それは……しかし―――」
逡巡するように視線をあちらこちらに飛ばしていたアンリエッタだが、何かを心に決めたのか顔を上げ反論しようと口を開くが、
「―――何せ、国を滅ぼしてしまった王でさえ、名君と呼ばれる事もあるのですから」
虚空を見上げ、セイバーが何かをポツリと口の中で呟いた、深く、暗い自嘲めいた声の欠片を耳にし、戸惑った声を上げた。
「アルトリア、さん?」
「……いえ、何でもありません」
アンリエッタの呼びかけに、セイバーはほんの微か、僅かに顎を動かしただけで応えた。弱々しい、見た目通りの華奢な少女の姿に、アンリエッタは続ける筈だった言葉を飲み込んだ。
「……そう言われますが、分かっているにも関わらず、変わらず自分の感情も制御できないわたくしは……やはり、『王の器』等ではなかったのでしょう」
「―――“王の器”ですか」
肩を落とし、ため息と共に吐き出したアンリエッタの言葉を耳にしたセイバーが、何処か遠い何かを見つめるように目を細める。
「はい。わたくしが王になると決めたのも、突き詰めて言ってしまえば子供の我儘のようなものでした。そんなわたくしに、“王の器”等在ろうはずもありえません」
「……アンリエッタ、あなたは何を持って“王の器”と言うのですか?」
「え?」
今までのような穏やかとも言える口調ではなく、何処か責めるよ
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