第五章
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第五章
「一度も」
「そうなのですか」
「はい、ただ」
「ただ?」
「病院から看護士さん達が見回りに出ていましたよね」
「ああ、あのことだね」
それは藤熊先生も知っていた。それで頷くことができた。
「あれはもう止めたんだよね」
「はい、そうです」
このことを話すのだった。
「俺が提案したんです。その代わりに俺が見回るってことで」
「それと関係あるのかい?」
「あるみたいですね」
こう述べた悟志だった。
「それから出て来なくなりましたから」
「?どういうことなんだい?」
先生はそれを聞いて首を傾げさせた。
「それから出て来なくなったっていうのは」
「あのですね」
悟志はそのことについて彼が推察していることを話したのだった。
「多分最初から口裂け女はいませんでした」
「いなかったのかい」
「夜に出歩いている女の人。その人の口がたまたま大きくて」
言いながら美奈子のことを頭の中で思い出すのだった。その大きな口を特にだ。顔立ちが整っているだけにその口が余計に目立つこともわかった。
「それでその人をですね」
「口裂け女だと思った」
「そういうことだと思いますよ」
それだというのである。
「それで見間違えたんですよ」
「そういうことだったのか」
「だと思います」
先生に対して話した。
「それでその話を聞いた院長先生が腕の立つ看護士さん達を夜の街に見回りに行かせて。しかも三人とか五人で出したので」
「口裂け女の話と重なった」
「そういうことだったと思います」
彼は話を続けた。
「けれど看護士さんが夜の見回りに出なくなって」
「その話が消えたと」
「はい、これが話の真相だったんじゃないですか」
「つまり見間違いだったんだね」
藤熊先生はここで頷いたのだった。
「誰かの」
「それが口裂け女になって」
「けれど見回りがなくなって」
「些細な話ですね、思えば」
「それでも大騒ぎになった」
街全体で、しかも日本中で話題になった。思えばかなりの話である。
しかしそれも終わったのだ。これで。
「それでですね」
「もう見回りはしないんだね」
「はい、それでです」
それとはまた違う話だというのだ。
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