Interview2 1000年待った語り部 T
「何か欲しい物、あるか?」
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「……ユリウスってタラシの才能あるよな」
食後、愛猫と戯れていた兄に対し、ルドガーは半眼でグチをぶつけた。
「悔しかったらさっきみたいな台詞くらいはさらっと言えるようになれ。相手が彼女なら特にな」
ユリウスはルドガーがレイアをどういう対象として見ているかを知っている。ルドガーが自覚した翌日に、「何だ。やっと気づいたか」と言われた時の悔しさは人生で暫定トップだ。
「無理だって。言ってもレイアを困らせるだけだ」
「どうして」
「レイア、好きな男いるから」
ルドガーは半ばヤケにユリウスに打ち明ける。
――たまたま見てしまったレイアのGHSの待受画像。黒髪の少年と並んで写るレイアの表情は、ルドガーが知るどんな彼女より「女の子」だった。
一緒に写った少年が誰かをレイアに問うと、リーゼ・マクシアでの幼なじみだと答えた。
「少女時代の幼なじみでいつでもどこでも一緒だった相手か。しかも片想い継続中。相当分が悪いな」
ぐっさー。台詞が直に突き刺さった。
ルドガーはテーブルに突っ伏した。人の口から言われると秘奥義並みに効く。
「まあ、今は離れて暮らして、滅多に会う機会がないんだろう? その点、こっちは近所なんだから攻め放題じゃないか。そう士気を落とすな」
「落としたのはどこの誰だよ〜」
この話題はやめよう。際限なく悩んでしまう。
「あ、そうだ。ユリウス、1コ報告」
「何だ?」
「レイアが落ち込んでたから言い出せなかったんだけど、決まりそうだよ、就職」
「――本当か?」
「駅の食堂だけどさ。ほら、明日、アスコルドの完成式典の日だろ? 駅の利用客が増えるだろうからって臨時の求人出してて。手っ取り早く売り込もうと思ってマーボカレー持ってってアタックしたら、明日からすぐ来いって。本採用にするかはそれから決めるって言ったけど、結構いい線行ったと思うんだよな」
「そりゃお前の料理の味をプロが分からないわけないからな。――でも、そうか。ようやく……」
ユリウスはイスを立つと、ルドガーの頭に手を置いた。嬉しそうでいて寂しげな、それでも心から安堵したという貌。
独り立ちする子を見送る父親はこんなだろうかと想像すると、ルドガーはとたんに恥ずかしくなった。
「何か欲しい物、あるか? 就職祝いに」
「気が早いよ、ユリウスは。でも、そうだな――じゃあ、時計。ユリウスがいつも持ってるヤツ。片っぽでいいからさ」
「あんな古いのを……? それくらいなら新品の腕時計を買ってやる。そこまで甲斐性なしじゃないぞ」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけど……ま、いいや。じゃ、特になしで」
――これが兄弟と少女が安穏と過ごせた、儚くも尊い最後の夜。
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