アインクラッド 後編
それが、本当のわたしだから
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、実に三倍以上もの長大な時間が、わたしの前に立ち塞がった。運が良ければ最前線辺りで出会えるかも知れないが、マップの広さを考えれば、それは大海原で一粒の真珠を見つけ出すことに等しい。
「……仕方ないよね。ずっと会えない、ってわけじゃないんだし……」
自分にそう言い聞かせ、帰ろうと立ち上がる。そのまま俯き加減で歩き始めると、
「おっト」
逆方向に歩いていた人とぶつかってしまった。わたしは慌てて頭を下げる。
「すみません。ちょっと、よそ見してて……」
「いやいヤ、オイラも考え事をしてたかラ。……ン? アンタ、ひょっとして《モノクロームの天使》じゃないカ?」
「へ? え、あ、まあ、そうですけど……」
頭の上から降って来たのは、語尾が特徴的な甲高い声だった。どこかで、ふとこんな声の人の話を聞いたような気がして、その人の特徴を探しながら頭を上げる。
防具は全身革装備。武器は、小さなクローと投げ針を腰から下げている。
短い金褐色の巻き毛と、両頬に入った三本線のペイント。
「ホー、そりゃまた珍しい人とぶつかったナ。――オイラは《アルゴ》。情報屋サ。前人未到のクエスト情報かラ、街の武器屋のセール情報まデ、コルさえ払えば知りたいことは何だって教えてあげるヨ! 早速どうだイ? 初回サービスで安くしとくヨ!!」
早口でまくし立て、攻略組なら誰もが知っていると言っても過言ではない一流の情報屋――《鼠のアルゴ》は、にひひと笑い声を上げた。
第二十四層圏外村、《ウィダーヘーレン》。アルゴさんから教えてもらったマサキ君の住所は、針葉樹林に囲まれた一本の細い道の両脇に十軒ほどの家や店が並ぶだけの、寒素な集落だった。
村の中心から雪の積もった道を数分も歩くと、西のはずれにポツンと一軒だけ建っている家が目に付いた。
ダークグレーの外観と、雪に耐えるためなのか勾配が急なグリーンの屋根。林の中に静かに溶け込んでいる北欧風の外観を模したその家が、アルゴさんから教わったマサキ君のプレイヤーホームだった。
村のメインストリート――といってもレンガや石畳すら敷かれていない、細いものだが――を左に折れて、わたしの背丈よりも高く積もった雪に挟まれた、くねくねとカーブばかりの続く道を抜けると、ようやく家の玄関が目に入る。
「あっ……」
今まさにマサキ君がドアノブに手を掛けようとしていたのが見えて、わたしは思わず声を漏らした。反射的に雪を蹴って大声で呼ぶ。
「マサキ君!!」
「……エミ? どうしてここに……」
「良かった……もう、いきなりいなくなっちゃって、びっくりしたんだから」
残りの道を一気に駆け抜け、わたしは膝に手を当てて白い息を何度も吐き出しながら笑った。マサキ君は珍しく切れ長の目
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