アインクラッド 後編
それが、本当のわたしだから
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思わず、息を呑む。すっかりウインドウに見入っていたわたしの前に、いきなりピナが降って来た。
「きゃっ! ぴ、ピナ?」
「あはは、ピナも、友達になりたいって言ってるんですよ」
声を上げて仰け反るわたしに、シリカちゃんが笑いながら言う。その言葉に頷くように、ピナが何度か頭を振る。
「そうなんだ……。じゃあ、ピナも、わたしと友達になってくれる?」
「きゅるるっ!!」
聞く声は、まだちょっぴり怯えた風だったけれど、ピナは勢いよく一度鳴くと、小さな身体からは想像もつかないスピードでわたしの胸に飛び込んできた。
「……えへへ。ありがとう。ありがとう、ピナ……! シリカちゃんも、ありがとう」
くるくると回りながらピナを抱きしめ、三回転したところで止まって二人にお礼を伝える。それだけで、また心の中にじんとした温もりが打ち寄せた。と、わたしはこの場にもう一人いたことを思い出して、彼にもお礼を言うために部屋の角へ向き直る。
「マサキ君も、ありが……あれ?」
しかし。わたしは言葉に詰まった。つい先ほどまでそこにあったはずの姿が、いつの間にか忽然と消え失せていたのだ。
「あれ、えっと……マサキ君は?」
「え? だって、今までそこに……あれ?」
二人して部屋を見回すものの、マサキ君は影も形も見えなかった。どうしたんだろうとわたしたちが首をかしげていると、まるで計ったかのように突然現れたアイコンが、メッセージの受信を告げた。
受け取ったのは、案の定、マサキ君からのインスタントメールだった。『先に帰る。後は好きにするといい』。その文面からは、『もう二人で行動するのはおしまいだ』ということが簡単に察せた。
「マサキさんからですか? 何て書いてあったんです?」
――嫌だ。
何故かは分からないけれど、わたしははっきりそう感じた。まだ、彼と別れたくはないと。それは、わたしが久しぶりに発したわがままでもあった。
「……エミさん?」
「……わたし、行って来る」
「え? あ、ちょっ!」
「ごめんなさい! 後でまたメールするから!」
気がつくと、わたしは宿を飛び出していた。街の南にある転移門までの道のりを一息に駆け抜け、溢れかえった人波を掻き分けてマサキ君を探した。しかし、五分が経っても、十分が経っても、あの空色のシャツが視界に映ることはなかった。
「もう、転移しちゃったのかな……」
大きな落胆に包まれ、わたしは門柱の傍に背中から倒れるようにして座り込んだ。オレンジに藍色が混ざり始めた空を眺め、いつまでマサキ君と出会えないのかを考える。多分、この層のボス戦には彼も顔を出すはずだから……。
「一週間くらい、かな……」
――一週間。マサキ君と過ごした濃密な二日間の
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