アインクラッド 後編
春告ぐ蝶と嵐の行方 3
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突然の質問に若干戸惑いつつも、わたしは男性の顔を記憶の中で捜し始めた。確かに言われて見れば、どこかで会ったような気もする。それも、かなり最近に――。
「――あ、ひょっとして……」
「思い出してもらえましたか」
わたしが口走ると、男性は柔らかく目を細めた。そうだ、前回会った時とは顔色が全くと言っていいほど違っていたために気付かなかったが、確かにこの顔と声には覚えがある。
「――その節は、本当にお世話になりました」
そう言って、二日前にわたしが転移結晶を渡した男性は、隣の女性と共に深々と頭を下げた。
「あの、どうぞ」
「ありがとうございます」
二人から「少し話がしたい」と持ちかけられたわたしは、階段脇で待っていてくれたシリカちゃんとマサキ君に先に行ってもらい、二人と自室に入っていた。わたしがソファを勧めると、二人は一言礼を返してわたしの対面に座り、おもむろに口を開いた。
「突然おしかけてしまってすみません。私はウォルニオンと言います。こっちは、妻のタカミです」
「タカミです。先日は主人の危ないところを助けていただいて、本当にありがとうございました」
「あ、いえ、そんな……」
再び深く頭を下げた二人につられて軽く会釈を返しながら、わたしは《ウォルニオン》と名乗った男性が発した「妻」という単語に驚きを隠せないでいた。
SAOに存在する、システム上で規定されているプレイヤー同士の関係性は四種類だ。すなわち、無関係の他人、フレンド、ギルドメンバー、そして結婚。だが実際にこの世界で結ばれている婚姻の数は、その前三つと比べ著しく少ない。
なぜなら、このSAOでの“結婚”というものは、文字通り自分の全てを相手と共有するものであるからだ。
具体的には、プレイヤー同士が婚姻関係を結んだ瞬間、その二人のコルと全アイテムは同ストレージ内に共有化され、この世界では一番の生命線であるステータス画面までもお互い自由に閲覧することが可能になる。SAOには恋人同士のプレイヤーもある程度存在するが、そのあまりにも巨大なリスクのせいで、結婚にまで至るカップルは殆どいない。かくいうわたしも、実際に結婚している人を目にするのはこれが初めてだった。
二人は顔を上げると、呆けているわたしを見ながら、穏やかな口調で話し始める。
「僕が彼女と出会ったのは、九層のNPCレストランでした。そこでウェイトレスとしてアルバイトしていた彼女に、一目惚れしたんです。ライバルも多かったんですけど……何とか、競り勝つことができました」
「彼、凄かったんですよ。コーヒー一杯で、三時間も粘った日もあったんです」
微笑みながらタカミさんが言うと、ウォルニオンさんは恥ずかしそうに首の後ろを掻きながら頭を前に倒した
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