第10話 愛の在り処
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ってやるのは可哀想だろ。お前自身、誰にも自分を開示しようとはしてないんだから。積極的に自分を見せようと、してないじゃねえかよ」
「おお!……よく分かったねえ」
「ここまで評判が高い割に、結局誰とも付き合ってない。昼休みに毎日俺の事を構ってられるくらいで、いつも一緒に居るような特定の友人なんて居ない。お前くらいのスペックならほっといても周りに人が寄ってくるし、普通はその中から特定の友人ができるはずだ。でも、実際のお前は、誰に対しても平等。お前の方から、人を避けて、深い関係になるのを防いでる。そうなんだろ?」
「That's right!」
田中はウインクしながら、パチンと指を鳴らした。どうしてこの少年の仕草はこう、いちいち芝居がかっているのだろうか。それがまた、似合っているのが憎らしすぎる。
「俺と謙之介と、あとは紫穂と。多分この三人の間には、本質的な違いは無いんだよ。謙之介と紫穂は、最初から人と距離をとってる。自分を曝け出したくないからだ。俺がやってる事はその逆。誰とでも"平等な友情"を築き、自分から人に近づいているようでいて、やってる事は虚構の田中智樹を作り上げて周りを誤魔化してるってことだ。結局、自分の中身を隠してるって点では、同じだよ」
「…………」
やたら悪戯っぽく笑っている田中だが、言ってる事の中身は、自分の人間関係を全て無下にしてるようなものである。それほど多くの人に語っているとも思えない本音を、笑みを浮かべながら語る田中。小倉は田中の事を、「良いやつすぎるほど良いやつ」だと思っていたが、やはり、それも虚構。この学校に来てからいくつも目にしてきている虚構と同じだったらしい。
「……愛って何かって話だったね?ハッキリ言おう。分からないよ。分からないから、今自分がそれを手にしていて、それに気づいてないだけなのか。それとも、虚構を通じた付き合いししていない、自分だけがそれを持ってないのか。もしくはこの世の誰もがそんなもの持っていないのか。それすらも分からない」
「……俺も、全く同じだな。分からねぇや」
「でもね。仮説はあるんだよ。一応、言ってみようか?」
田中は確認するような言い方をしたが、その自信たっぷりな目は、小倉が首を縦に振る事を予測しているようだった。少し癪に思いながらも、小倉はその通りに、頷いてやった。
「信じる事に尽きるだろうな。相手を、信じる」
「信じる?」
「そう。でも、疑いを持たないって事じゃないよ。その点では、覚悟に似てるかな」
田中はベンチからサッと立ち上がる。そして冬の空に向かって、大きく伸びをしてから、さっぱりとした笑顔を、小倉に向けた。
「……試してみるかい?」
「は?」
「愛の実験、始めよう。ほら、謙之介の誕生日にはまだ少し
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