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青い春を生きる君たちへ
第9話 ゼロ距離の彼岸
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…………」


高田は、そっと立ち上がって、小倉の隣に身を寄せた。躊躇いはなかった。



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何が一体、どうなっているのか。小倉には分からなかった。どうしてこの状況になっているのか、イマイチ理由が飲み込めない。高田の情報は、この部屋に入る前よりも増えたはずだった。孤高の裏にある、悲壮に気づいた。それは理解したと思う。
しかし、理解が一つ進めば、また更に未知の部分が顔を出す。今の状況がそうだ。小倉には、高田の行動の意図が分からなかった。
もしかしたら、人間関係自体、そんなものなのかもしれない。中身に近づけるかもと、皮を剥いて剥いて、しかしその度その下に皮が見えてくる。まるで玉ねぎの皮むきだ。玉ねぎは皮こそが本体みたいなもんだが、人間も同じだったりするのだろうか。



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人と交わろうとするには、自分自身が相手に開かれてなければならない。それは教室の中でも街の中でも、この部屋の中でも同じこと。自分はそれが、生得的にそうなのか、後天的な理由によるのかは分からないが、苦手なのだと思う。頑なになりそうな自分自身を精一杯ほぐしながら、せめてこの部屋の中でだけでも、開かれていようと思った。

ある一瞬、自分自身を突き抜けるような痛みが襲った。別に、この程度が耐えられない訳ではないけれど……しかし、相手の背に回した手を強く握った。

自分を覆う相手の温もり、相手の重み、そしてこの痛み。その全てを受け止めてようやく、人と交わっていると言えるのか。温もりに甘え、重みに安心し、痛みに悶えてやっと、人と交わっていると言えるのか。

高田はそう思った。



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「はしたない女だって、思う?」


小倉の腕の中にすっぽりと収まった高田は、小倉に背を向けて尋ねた。肩甲骨が浮いてるような華奢な背中から目を逸らしながら、小倉は答える。


「……別に。だってお前、初めてだったろ?」
「……そうね」


もう既に凝固しつつある汚れ。赤黒い染み。それを肌で感じながら、小倉はため息をついた。


「ただ、どうしてこうなるかが、俺には分からん。何でだ?何で急にこんな……」
「わが身はなりなりて成り合はざる処一処あり」
「はぁ?」


唐突に繰り出される、古事記の引用。国産み神話での、伊邪那美の一言。


「……自分の中の隙間が、今日は殊更に気になった。だから、埋めようとしたの。……馬鹿よね。こんな事で、埋まるはずはないのに。私とあなたは、他人で
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