第9話 ゼロ距離の彼岸
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しく思いながら高田が見ていると、小倉はチッと舌打ちした。
「何を言わせてんだよいきなり……ダサい自分語りになっちまっただろ……まあ俺が勝手に喋ったんだけどな」
小倉の目が、同じテーブルを囲んでいる高田をとらえた。メガネの奥の目が、今は少し睨むように細められている。
「お前はどうなんだよ?お前みたいな華奢な奴を一人暮らしさせてんだから、普通の家じゃなさそうだが……」
「……」
高田は迷った。自分を開示すべきかどうか。すべきかどうかで言えば、もちろん、小倉に自分の事を話すのは、あまりすべきでない事だと言える。しかし、小倉の心の中のドロドロを引き出したのは自分なのだから、一方的に聞くだけ、というのもフェアではない。
なんて軽率に、事を尋ねてしまったのか。高田は唇を噛んだ。まさか、無意識のうちに。知りたいと思った?小倉の事を。知らせたいと思った?自分の事を。沈黙が続く中、高田は自分の心の中の瘡蓋に手をかけた。
「……居ないのよ」
「……は?」
「死んだの。交通事故で。両親どちらも、ね」
小倉は体が固まった。その答えは想像の斜め上だった。両親の死を口にした高田の表情は、いつもと変わらぬ無表情なのだが、その無表情に少しの影が見えるのは、それは見ている自分の気持ちの変化がそうさせるのか。
「12歳の時にね。私だけ助かったわ。それから、ずっと1人」
「…………」
孤高。小倉は高田の事を、最初そう思っていた。今でもそれは変わらない。しかし、それはコミュ力の欠如だの何だの、そういう事が原因なのではなかった。ひょっとすると、独りでしっかり立っていないと、生きてこられなかったというのが真相なのではないか。この世で最も強い、血の繋がりが消え去って、でも友人関係なんて薄っぺらいもんじゃその穴はどうしても埋められなくて、その結果、つながりなしに、独りでもしっかり生きていくという事を覚えた。それが真相なのでは……
「私自身の事を同年代に話したのなんて、久しぶりに思えるわ。もしかしたら、初めてかも」
「…………」
言葉に出してみると、やはり、高田の心の中の瘡蓋はとれてしまった。瘡蓋がとれた傷口は、血を流して痛み始める。「あの人」をはじめ、いつも接する大人に話しても、おそらくこうはならないだろう。大人たちは、瘡蓋を強化してくれる物語を持っている。亡くなった両親の分まで、その遺志を継いで……そういう、継ぎ接ぎを傷口に当ててくれる。なのに、目の前の……この少年は何も言ってくれない。黙って切なそうな顔なんてしないで欲しい。もしかしたら……
もしかしたら、言葉になんてできない、自分の、自分だけの気持ちを、分かってくれてるのかもしれないと。期待してしまうから。求めてしまうから。
「
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