第9話 ゼロ距離の彼岸
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に目をやった。
「……!?高田……」
「何の用かしら?」
自分の横に、高田がいつもの無表情で立っていた。ベージュのチノパンの上に、チェック柄のシャツとスウェットを重ね着している。制服姿しか見た事が無かった小倉は、高田の、やや地味ながらもキチンと着こなした私服姿にも驚いたが、それ以上に、ここまで近づかれているのに気づかなかった事にも驚いた。何で気配が消えていたんだ。こいつ、忍者かよ。
「……風邪引いてたんじゃなかったのか。ズル休みか?」
「午前中には良くなったから、外に出てみただけよ」
「出てみるなよ。養生してろ」
呆れながら小倉は言うが、本当のところ、高田は風邪など引いていない。そう思った。何故だか、華奢で小柄なのに、高田が病気するというのが想像できなかった。一方、勝手に学校休むのは容易に想像できる。チャラチャラ遊ぶためのズル休みではなく、もっとこう、普通の高校生の思考の枠に収まらないような、そんな判断で。
「これ、中にプリント入ってる。ちゃんと確認しとけよ」
「ありがとう」
「じゃ、治ったんなら明日は学校来いよ。……俺が言うことでもないけど」
どちらにせよ、現状元気なんだったら、自分に手伝う事も無いし、これで仕事は終わりだ。小倉はそう考えて、高田の手の中にファイルを押し込み、踵を返した。すると、小さな手がするすると伸びてきて、小倉の手をきゅっと掴んだ。
「何だよ、いきなり掴んだりして」
「……どうせなら、上がってお茶でもしていって」
「いや、良いよそんなの。先生に頼まれて来ただけなんだし」
「この後、用事も無いんでしょ?」
高田はサッと、重力をまるで感じていないような軽やかな身のこなしで小倉の正面に回った。まっすぐに自分の目を見てくる、その視線に小倉は捉えられる。高田がこんなに、他人に構おうとする態度は初めてだ。これまで2回話したのは、どちらも田中の関係した用事のついでだった。今の高田は、自分から他人に関わろうとしている。珍しい光景だった。
「……分かったよ」
滅多にない事だ。何か理由があるのだろう。思うところがあるんだったら、付き合ってやっても良いか。そう思って、小倉も強く断る気にはならなかった。
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「紅茶、飲める?」
「飲めない事もない」
「……淹れるから、ちょっと待ってて」
部屋の中に通された小倉は、キッチンに向かった高田を待つ事にした。部屋の中を見回してみる。しかしまぁ……モノの少ない部屋だ。自分が言えたもんではないが。女子高生の部屋にしては、余計なモノが殆ど置かれていない。棚の上に、いくつかの絵葉書が飾ってある
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