第9話 ゼロ距離の彼岸
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度に、自分の小ささを痛感する。大事に大事に守られているだけの、まだ何者にもなり切れていない中途半端な自分。もどかしさが募った。
《それはそうとね?》
「はい、何でしょう」
《あなたにお客さんが来てるわよ。青葉松陽高校2年F組の小倉くん。》
「えっ?……彼が一体、何の用事で……」
《さぁね?学級通信でも運んできたんじゃない?》
スマホを耳に当てて歩きながら、高田は小倉の顔を思い出した。坊主が少し伸びたような髪、眼鏡をかけているが、理知的な雰囲気や根暗な感じよりは、その目つきの悪さも手伝って、やや厳つい印象が勝る。退屈で緩やかな時間が流れている分、かえって自分に焦りを抱かせる、あの学校での日常の中で、唯一マトモに言葉を交わした少年。他の生徒が、恋愛や、趣味嗜好や、部活動や、とにかく身近な人の事ばかり考えている中で、一歩引いた所からそれらを冷ややかに批評してばかりの、捻くれた少年。高田にとっては、どちらも"身近な人の事を考えている"という点では同じに見えるのだけど……
《……よく相手してあげなさいよ》
「……どういう意味でしょう?」
《あなたの事を心配して来てくれたんでしょう?"風邪"で3日休んだあなたの事をね。無下にしちゃいけないって言ってるのよ。私達は、あなたに"悪人になれ"と言った覚えはないわよ。むしろその逆。道徳的で、良い人間でありなさい。その上で、やるべき事を躊躇いなく実行しなさい》
「……」
《分かった?じゃ、切るわよ》
「あの人」からの電話が切れる。高田はため息をつく。別に、悪人になろうとしてる訳じゃない。周りの人間を見下してるから、無愛想になったんじゃないのに……そういう弁解が全て虚しい事を自覚してのため息だった。
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(……しかし、俺はともかく、あんな小娘を高校生のうちから一人暮らしさせるなんて、親は一体何を考えてんだか。乱れだな、乱れ。自由の普及のし過ぎだ)
葉鳥から渡されたメモの住所を頼りに、小倉は高田の部屋の前までやって来ていた。ごく普通のマンションだが、オートロックの玄関でも無いし、女子高生が一人で住むのにはやや、不用心な感も否めない。自分などに興味を持つ奴はそうそう居ないだろうが、あれだけ綺麗で華奢な高田には、悪い虫は山ほど寄ってくるだろうに。小倉はやや呆れながら、呼び鈴のボタンを押した。しばらく待っても、返事は無かった。
(……留守か)
留守ならば、手元のファイルをレターボックスに押し込んで帰るだけである。一人で出歩けるような状態だと言うのなら、看病も必要あるまい。いや、待て、本気で看病するつもりで居たのか?高田を?……小倉は息をつきながら、ふと横
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