第9話 ゼロ距離の彼岸
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キツい。久しぶりに、本気でそう思った。これまでも、深夜にいきなり叩き起こされて山の中を走り回らされたり、自分の体が自分ではないように思われるほど疲弊したり、そういう事はたくさんあった。しかし、今回は、それらを含めても、かなり上位に入るキツさだ。気を抜くと、背中に背負った相棒もろとも、その場に崩れ落ちてしまうのは間違いがない。自分は特別で、余程な事が無いと死ぬ事は無い。その確信が多少揺らぐほど、これはキツかった。歯を食いしばりすぎて、口の中が切れたのか、さっきからやけに血の味がする。それほど早く歩いている訳でもないのに、息切れがして、少し目も回っているようだった。ダメだ、集中しないと……いくら思っても、もどかしさが募るばかりだった。
「……何でだよォ……何でこんな、こんな役立たずの俺を助けるんだ……」
華奢な自分の体に背負われた相棒は、シクシクと泣いていた。ぼんやりした頭の中に、少しの苛立ちが芽生える。泣かないでよ……せっかく、なけなしの水をあなたに与えたというのに。余計に水分を浪費しないで……
「……殺してくれ……殺してくれよォ……」
「……ダメよ。絶対にダメ。任務は、二人で生還、だから」
それに……あなたを見捨てて、殺してしまうと、それを後悔せずに居られる自信が、私にはない。最後の一言は声に発する事なく、一歩、また一歩と、気の遠くなる道程を歩んだ。
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「俺が、高田の家にこれ届けるんですか?」
「ああ、そうだ。お前、帰宅部だろ?時間あるよな?これ、住所だから」
放課後の社会科職員室。葉鳥に手渡されたファイルの中には、ここ数日のHRで配られるはずだったプリントと、高田の家の住所が書かれたメモが入っていた。それを確認するにはしたが、小倉は納得がいかない顔で葉鳥を見た。
「……別に、また来た時に渡せば良くないですか?勝手に生徒の住所まで教えて……ダメでしょこんなの」
「意外と固い事言うんだなお前」
「個人情報は慎重に取り扱うのが当たり前でしょ。先生、前も田中と高田に俺の住所教えてましたし」
「あ?バレてた?」
葉鳥は悪戯っぽく笑っていた。保護者によってはクレームをつけられてもおかしくない事をしてるのに、余裕な態度をとってるのは、それは小倉が保護者に相談する事なんてありえない、と踏んでいるからだろうか。しかし、「お前なんてぼっちだから、いくら本音を聞かせたって問題ない」という趣旨の事を言った日のその夕方に、田中と高田を差し向けるなど、所々詰めが甘い所があるのが畜生の割には可愛げがある。
「……高田もお前も、だいたい一人ぼっちだ。そりゃ、まぁ、孤独な人間同士が必ず分かり合えると
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