SCAR
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はからきしの私は分が悪い。ここは先手必勝に限る。杖を軽く振るう。
ちなみに傷の男が言った『雷の魔女』と言うのはイシュヴァールでの私のあだ名だ。杖を振るって戦う姿が魔女に見えた所から来たそうだ。
弾けるような爆発音が傷の男の立っている所から鳴る。この音は人の肉が弾ける音ではない。これは地面が割れた音だ。
「ー!よけた!?」
傷の男は猛然と右腕を構えて向かってくる。
雷をよけるなんて尋常ではない。と言うより無理だ。ではなぜ?
その答えはすぐによけた本人からもたらされることになる。
傷の男の接近に全く反応できなかった私は杖をむんずと掴み取られてしまう。傷の男はそのまま杖をへし折ってしまった。地面に捨てられる私の杖。
「あ、ぁあ」
思わずその場にヘタリこんでしまう。
原始的な恐怖が心を支配してくる。ここまで圧倒的な死をイメージさせられたのは後にも先にもこの時が最後だろう。
傷の男がヘタリこんだ私に右腕をかざしてくる。殺られるその前にどうしても聞きたいことがあった。
「…どうして、よけられたの?」
「お前が対人戦の場合、足元を狙うクセがあるのはイシュヴァールの時から知っている」
なるほど、そういうことだったのか。確かに私は殺さないためにまず足から狙う。何度も注意されたが一向に抜ける兆しのないクセだ。
いや、クセというよりは信念だ。殺さない信念。あぁ、そう言えばそれがいつか君の命取りになると誰かに言われたっけ。
しかし、そんなことを知っているということは傷の男は私の担当地区だったのだろうか。それが疑問となり口から出た。
「私が…貴方の家族を殺したの?」
「……いや。このことは生き残った同胞たちから聞いた」
この言葉に私は驚きを隠せなかった。そして驚きはすぐに安堵に変わる。
生き残った同胞から聞いたということはイシュヴァールの民が少しでも生き残っていること。しかも私のことを知っているということは私の担当地区の生き残りなのだろう。
心が救われた気がした。実際、私のしたことは消えないし罪の重みは全く変わらない。しかし全滅させたと思っていたのに実は生き残りがいたのだ。完全に咎から逃げる罪人だが、心から安堵した。俯いた先の地面には私の涙がポツポツと落ちた。
「そう… ありがとう。最後にとてもいいことが聞けたわ」
頭に大きな手が当てられるのを感じる。大罪人が受けるべきは裁きだ。
「神への祈りは済んだようだな」
ゆっくりと目を閉じる。先程までの死への恐怖は全くなかった。むしろ今は今か今かと裁きを待っている心境だ。傷の男の指に力が入る。遂にくる。
その時、銃声が鳴り響いた。途端に頭にあった死が急に離れていくのを感じた。
訳がわからず銃声のした方を向くと、そこには息を切らしながら
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