第一部北領戦役
第十ニ話 最後の転進 最後の捨石
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
無茶苦茶もいいとこだが豊久は重ねて、大隊長直率は、士気と統率を保つ手段である、と言い募った。
「・・・・・・」
新城はまるで硝子の様な目で旧友を見ている、何を考えているのか分からない。
「捕虜の騎士殿と騎兵砲とその要員を全員、剣虎兵二個小隊と、鋭兵中隊、療兵分隊を残せ。
残りは大尉が撤退行動を指揮し、転進せよ。
それとお前が取りすぎた細巻を返せ、命令、だ。」
「はい、大隊長殿」
騎兵砲は四門しかない、負傷者が多く輓馬が足りなかったのだ。
新城から奪還した細巻に火を着けると馬堂少佐はぼんやりと空を見上げた。
――上物だ、やはり旨いな。
・
・
・
「最後まで望んで貧乏籤を引くなんてずいぶん変わったご趣味ですな。少尉殿。」
「まぁしょうがないさ。乗りかかった船に変な愛着が湧いただけさ、帝国の捕虜の扱いが良い事を祈るよ」
冬野曹長と西田が軽口を叩きあっている。
あ〜、もっと悲壮な感じになっていると思ったが。
「少佐殿、忙しくなる前に食べときましょう。」
鋭兵中隊長を志願した杉谷が餞別の握飯をもって馬堂少佐に近寄った。
「お前も残ったのか?」
「夜襲の時からのご縁ですからな、生きて帰ったら面倒みてくださいよ」
「――まぁいいや、ありがとな」
かつて、彼を怨んでいた漆原が志願しているのは無視している。
何を想っているのかを聞くのが怖いのだ。
「―― 一個寄越せ。」
作戦は単純、ここまで来た敵を森から砲撃及び射撃、猫に吼えさせ、騎兵を混乱さたところを徹底的に叩く。
その後は森で身を隠しつつ時間を稼ぐ、それだけだった。単純で穴だらけの作戦だ。
――誘引?此方の射撃で中隊規模だとあっさり看破されたら、一個大隊で地帯戦闘を行い、大隊の追跡を続ければよい話である。
――砲撃と剣虎兵への畏怖による判断ミスを願うばかりだ、本隊は最早、猫が一匹いる銃兵部隊でしかない。
この部隊は騎兵砲四門、猫七匹、兵数は約百名超と一個中隊規模としては中々の戦闘力を持っているが、それだけでしかない。
――やるだけやってみるか
そう考えると馬堂少佐は無理矢理唇を捻じ曲げた。
・
・
・
午前第七刻 苗川渡河点より後方約十五里 北美名津浜
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長代理 新城直衛大尉
独立捜索剣虎兵第十一大隊の大隊長代理となった新城直衛はいつも通りの仏頂面であってもどこか不安定な様子であった
「大尉殿、部隊の半数は既に乗船を完了しました。」
「そうか、水軍の方も急がせてくれ。」
猪口曹長が報告するが、それに応える姿もどこか茫洋としたものであった。
――意外ではあった。
新城が判断する限り、馬堂豊久は決して無能でも臆病でも無いが、その根底は保身的であり、社会的
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ