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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十ニ話 最後の転進 最後の捨石
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皇紀五百六十八年 二月二十四日 午前第五刻 苗川渡河点より後方約十里
独立捜索剣虎兵第十一大隊 大隊長 馬堂豊久少佐


 第十一大隊の行動はひどく鈍重なものであった。
何故ならば、手持ちの橇や馬車は重傷者と導術兵、そしてバルクホルン大尉用に割くのが限界であり、軽傷者を行軍させねばならなかったからである。
輜重兵達は二日日分の糧秣と残り僅かな弾薬を運ばせているだけなのだが何故こうなったのかというと

 ――それは俺が手持ちの馬車を全部近衛に渡す書類にサインしたからだ、避難民の輸送の為だから仕様がないのだが。
 偽善を兵達に強いたうえにそれを今更に後悔しかけている浅はかな自分に自嘲の笑みを浮かべた。
「霧が濃いな・・・猫と導術に頼らなければならないか」
 相対的に考えれば有利ではあるが、視界が利かないのは単純に不安を煽る。
 行軍を日付が変わった後まで送らせたとはいえ、連戦続きの所為で歩いている兵たち――取り分け負傷兵達の疲労は濃い。
 ――遭難者が出るのもまずいな。敵の先遣隊にもそろそろ気取られるだろう、もしそうなったら合流した騎兵大隊も補充・補給を受けている可能性がある。
つまりそろそろ追撃が始まる頃合だ。距離を夜間に稼いだのだから接敵する予想時刻は――いや、その前に負傷した兵達が潰れる前に休ませることも計算に入れねば――

 眠気がこみ上げ、欠伸を噛み殺す、計算を行う前に酸素を脳が求めたのである。将校――それも計算能力が必須である砲兵将校としてはあまりに無様だ。
 ――駄目だ。疲れて頭が回らん。少し歩くか。
「米倉、前の様子をみてくる、ここは頼んだ」

 馬から降りて前衛の新城大尉達率いる剣虎兵達の所に早足で歩く、指揮官は走るな。と祖父や教官にきつく言われた事が染み付いている為だった。
 正直、豊久も馬に乗っていたいのだが駒州産の将家である豊久は馬を大事にする習慣を身に付けており、剣牙虎に近寄らせ、いたずらに馬を怯えさせる事を厭うていた。
 
 ――剣虎兵自体を否定するつもりは無いが、馬との相性の悪さばかりは面倒なものだな、北領鎮台が厄介物扱いしたのも解らないでもない。なにしろ、今はまだ馬は社会の要なのだ、それは戦場でも変わらない、輜重部隊が兵站を支えているし、戦場の神である砲兵も馬を使っているし、そして追撃の華である騎兵は人馬一体でなければならない……我ながらやや主観が入っているような気もするが、これ自体は剣虎兵部隊が匪賊討伐に成果をあげても軍上層部が剣虎兵部隊の拡張を行わなかった原因の一つである。剣牙虎の集団投入は既存の戦場を台無しにしかねない可能性がある、と考えられている。そして、それは敵に齎す効果をみると杞憂ではなかった事が分かるだろう。運用を誤れば味方に起きる事も十分に有り得る事であるし、誤りは人死
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