暁 〜小説投稿サイト〜
青い春を生きる君たちへ
第8話 面倒くさいのね
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田がちょこんと座る。お前、ガッつくの早すぎだろ−−小倉はその一言を飲み下した。

ベンチから周囲に目をやると、文化祭も終わりが近づいて、そこかしこでスマホのカメラなどを使って、記念撮影が行われている。ああやって、写真に収めておけば、後々「良い思い出」として振り返る日が来るのだろうか。写真の中には自分達の笑顔だけが残って、そこに至るまでの過程など、頭の中からは消し去られていく---
そんな事を何故小倉は考えたかと言うと、文化祭の中盤辺りまで、時間を持て余していたような連中までが記念撮影に加わり、作ったような良い笑顔を顔に貼りつかせていたからだった。彼らが今日1日、ずっと楽しんでいた風には見えない。だが、こうやって「良い笑顔」を浮かべている写真を一枚残しておけば、暇を持て余していた時間の存在など忘れ、写真の中の「良い笑顔」、そしてその笑顔が伝える楽しさこそが真実として残っていく。小倉には、記念撮影のその様子は虚構を作り上げる、その現場として映ったのだった。


「これも、虚構か」
「……何が?」


思わず1人言をつぶやくと、高田が反応した。ちょっと声に出ただけなのに、しっかり聞き取ってくるとは、こいつかなり耳が良いかもしれないと、小倉は思った。


「いや、ああやって写真撮ってんの。"自分らサイコー"ってやってんのってな、それ本気で思ってんのかなって。楽しかった青春時代、良い思い出……って言葉は、この世に溢れてる。それって、本当にそう思ってるんじゃなくて、そう思おうとしてるだけなんじゃないかって、思っただけだ」
「……この前百貨店で話した事の中身、まだ覚えてる?」


高田は大学芋を全て飲み下し、空になった紙コップをキュッと握りつぶした。しかし、食べ終わっても立ち上がる素振りは見せない。小倉も、立とうとはしなかった。高田の言葉の続きを待っていた。


「与えられた機会、学校に用意された文化祭という状況の中で、そこに精一杯、意味を与えようとしているんじゃない?楽しかった思い出、という意味づけをしているのよ」
「……土方達が、自分の人生を"金が無くても幸せだ"って思い込んでるみたいにか?どうも納得できねえんだよなあ、その理屈……嘘も100回言えば本当になる、つってるみたいで」
「楽しさなんて、そもそも主観的なものよ。絶対的な"楽しさ"というモノが存在しているわけじゃない。だから、人によって、何をしてる時に楽しいか、が違うんじゃない。楽しさって、自分と状況との関係性よ。だから、どんな状況でも、自分がそれに合わせる事で、作り出す事ができるんじゃないかしら。まあ、"必ずしも楽しくないといけないのか"という点については、疑問が残るけど……」


高田は、フン、と呆れ気味に鼻を鳴らした。


「……小倉くん、本当に余計
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