第6章 流されて異界
第106話 βエンドルフィン中毒?
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わせたハミングが聞こえて来る訳でもない。ただただ簡潔で普段通り。しっかりと彼女の声に精神を集中させていなければ非常に聞き取り難い小さな声。
しかし、その中に微かに感じる喜の雰囲気。
ただ、何故、彼女の機嫌が良いのかが分からない、のですが。
もしかすると、この日常にどっぷりと浸かった時間が、彼女にとって……。
……楽しい、と言う感覚を与えて居るのか。そう考え掛けて、しかし直ぐに否定的に小さく首を横に振る俺。
何故ならば、俺と彼女の関係が非日常そのもの、だから。そもそも、兄妹でもなければ、ましてやギリギリ許される範囲内の従妹でもない高校生の男女が同棲生活を営んでいるのも異常ならば、その二人の関係も俺が主で、有希が従の契約関係。
そうして、俺がこの場に居るのも、そもそも、一度狂い掛けた歴史の流れを元通りの流れに確実に戻す為の処置。揺り戻しを警戒するために必要だと言う理由で呼び出された異世界人。
彼女から見ると、俺と言う存在が非日常の象徴のような物のはず。そんな俺が彼女の傍らに居るのに、日常にどっぷり浸かったような感覚を覚える可能性は低いでしょう。
「そうか。それやったら俺の――」
取り敢えず、機嫌が良い理由を深く詮索する事は止め、彼女の方さえ見ずに何かを話し出そうとする俺。当然、そんないい加減な態度。差して意味の有る内容を口にしようとした訳ではない。
日常を彩る取りとめのない軽い内容の会話。
しかし……。
その瞬間、何故か立ち止まり、ゆっくりと振り返って彼女の顔を見つめる俺。商品の鮮度を証明する為になのか、不自然なまでに明るい、そして、その鮮度を維持する故に冷たい店内の状況が何か、奇妙な違和感の如き物を感じさせたのだ。
そう、それは、以前にも何か似たようなやり取りをした事が有ったような気が……。
その振り返った俺の視線の先には――
彼女のやや鋭角な……少し人工的な雰囲気さえ漂わせている輪郭が、強めの蛍光灯の白色の中で際立っているかのように感じられた。
「大丈夫」
同じように立ち止まり、既に俺を見つめていた彼女が静かにそう言った。
しかし、これでは意味不明。まるで先ほど俺が何を言い掛けたのかが判って居るかのような答え。
そうして、
「強い特徴がある訳ではないけど顔の造作は整っていて、瞳には光が宿る。力強い筆使いで引いたかのような眉と優しげな瞳のバランス。筋の通った……真っ直ぐに伸びた鼻梁と日本人にしては高い鼻」
俺を真っ直ぐに見つめたままの状態でそう、独り言を呟くような小さな声で続ける有希。
……間違いない。彼女は俺がどんな内容の冗談を口にしようとしたのかが判ったと言う事。
「高い身長と服の上からは判らない引き締まった身体」
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