2…3
[8]前話
「しっかしよ……こうして何度見回しても信じられねぇな。ここが《ゲームの中》だなんてよう」
「中って言うけど、別に魂がゲーム世界に吸い込まれたわけじゃないぜ。俺たちの脳が、目や耳の代わりに直接見たり聞いたりしてるだけ……《ナーブギア》が電磁波に乗せて流し込んでくる情報を」
俺が肩をすくめながら言うと、子供のように唇を尖らせる。
「そりゃ、おめぇはもう慣れてるんだろうけどよぉ。おりゃこれが初の《フルダイブ》体験なんだぜ!すっげぇよなあ、まったく……マジ、この時代に生きてて良かったぜ??」
「大げさな奴だな」
笑いながらも、内心では俺も同感だった。
《ナーブギア》
それが、このVRMMORPG(仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム)ーー《ソードアートオンライン》を動かすゲームハードの名前だ。
しかしその構造は、前時代の据え置き型マシンとは根本的に異なる。
平面のモニタ装置と、手で握るコントローラという二つのマンマシン・インタフェースを必要とした旧ハードに対して、ナーブギアのインタフェースは一つだけだ。頭から顔までをすっぽりと覆う、流線型のヘッドギア。
その内側には無数の信号素子が埋め込まれ、それらが発生させる多重電界によってギアはユーザーの脳そのものと直接接続する。ユーザーは、己の目や耳ではなく、脳の視覚野や聴覚野にダイレクトに与えられる情報を見、聞くのだ。それだけではない。触覚や味覚嗅覚を加えた、いわゆる五感の全てにナーブギアはアクセスできる。
ヘッドギアを装着し顎下で固定アームをロックして、開始コマンドである《リンク・スタート》のひと言を唱えた瞬間、あらゆるノイズは遠ざかり視界は暗闇に包まれる。その中央から広がる虹色のリングをくぐれば、そこはもう全てがデジタルデータで構築された別世界だ。
つまり。
半年前、二○二二年五月に発売されたこのマシンは、遂に完全なる《仮想現実(バーチャル・リアリティ)》を実現したと言えるわけだ。開発した大手電子機器メーカーは、ナーブギアによる仮想空間(VR)への接続を、次のように表現した。
《完全ダイブ》、と。
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