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横浜事変-the mixing black&white-
逆転不能なときでも、一時の救世主くらいなら助けに来てくれる
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ったらわりとイカれた野郎で、計画を延期しなくちゃならなくなっちまった。ホント、『あのとき隣にいた女』と一緒に殺しておけば良かったわ」
「……。……え?」
そのとき、ケンジの意識が途絶した。けれどそれも一瞬の事で、彼は焦点の定まらない視界に浮かぶ大河内を眺めた。この感覚を味わうのは何度目だろう、と心の中で呟きながら。
そんなケンジとは反対に、大河内は楽しくてしょうがないとばかりに口角を吊り上げ、再び丁寧な言葉遣いになって語り出した。
まるでケンジの奥底に取り付けられた復讐の器官を刺激していくように。
「いやぁ、あの日の夜は10月だってのに寒かったね。22時に横浜駅近くの公園で寄り添う男女。実に素晴らしい絵だ」
「……」
「きっと周囲の人達から見れば妬ましかっただろう。羨ましかっただろう。自分にもあんな学生生活が欲しかったと心底嘆いた事だろう。君は本当に幸せ者だね」
「……ぁ」
「けれどもそんな日常はあっという間に崩れ去った。『殺し屋の電話番号』。一時期ネットでも流行ってたねえ。君の隣にいた彼女はそれに興味を示して実行した。そして……死んじゃった」
「……ぇ、くれ」
「喉笛をナイフで切り裂かれ、背中を串刺しにされた彼女の重みはどうだった?あれが死体だよ。よく覚えておくといい。あ、ごめん。君はもう僕らと同じ『殺人者』だね。そして彼女の死に対して何も出来なかったね!お疲れ様!」
「やめてくれぇぇぇぇええぇえぇえぇぇえぁああぁああああああああ!!」
ケンジの悲痛な叫びが夜の横浜の小さな世界で轟いた。普通の生活を送っていれば交わる事はない、血と硝煙と死体が支配する世界で。
彼はその場に膝を突き、拳を鎖骨辺りで力強く握りしめた。ここで泣いてはいけない。もう泣かないと決めた筈だ。もっと強くならなくちゃいけないんだ。彼は自分にそう言い聞かせるが、再び立ち上がるだけの気力は残っていなかった。やがて漏れ出すのは掠れて聞き取りにくい声。
「……僕はあのとき止めなくちゃいけなかった。彼女から嫌われても止めるべきだった。でも怖かったんだよ。僕は誰からも適度な間隔を取られて、実際はそれが悲しくて……だから彼女の存在は僕にとって必要不可欠で……!」
「お前が何を言ったって無駄だ。過去に戻ってやり直せるわけじゃない。今のお前にできるのは俺に復讐することだ。俺を殺せばいいだけの話なんだよ!」
大河内が両腕を左右に広げて笑っている。と、そのとき彼の隣でしゃがみ込んでいた法城が右手に持った銃を彼の頭部に振り上げた。そのままトリガーに手を掛けたのだが――
「っあ!」
法城の手から拳銃が弧を描いて横に飛んだ。ケンジは拳銃が手から外れていった反対側を見た。
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